第260話:テンミョウ・ハイス〜汚い絵描き〜

 まず始めに、僕は絵描きだ。

 前の世界でもこの世界でも絵を描いて暮らしている。

 今日も絵を描いているし、昨日も絵を描いていた。

 たぶん、明日も絵を描いているだろう。

 毎日のように素晴らしい景色を探しては絵を描く。

 幸いこの世界には素晴らしく個性的な風景がいくらでもあり、モチーフには困らない。

 ただ、僕の絵のモチーフに選ばれた景色は運が悪い。

 僕の描く絵は少し特殊で、そのままの景色を描くことはない。

 その風景の、未来だったり過去だったり。

 最も汚い時代の絵を描く。

 僕には過去を見る目も、未来を見る目もないけど、その景色をどう描けば台無しにして人々に嫌悪感を抱かせるかというのを考える頭を持っている。

 あとそれを書き出す腕もね。

 そういう形で、僕はきれいな景色を汚く、醜悪に描く。

 別にきれいな景色が嫌いなわけではないし、どちらかといえば好きだ。

 だけど、きれいな景色は僕が描かなくても誰かが絵に描くし、嫌悪感を抱くような汚らわしい景色も写真に残る。

 それに、きれいなだけの景色は描き飽きた。

 前の世界ではきれいなだけの絵を描き続けて、まぁそれなりに大成した。

 名を貸すだけで金が入る、そんな絵描きになった。

 そして、晩年に気まぐれで描いた一枚の絵が僕の世界を変えた。

 それは何の変哲もない木の絵だった。

 変哲もないというと語弊があるかもしれない。

 その木は僕が生まれた時に植えられた木で、年老いていた自分と比べるとまだ青々として元気だった。

 それが癪に触った僕はその木が僕と同じように年老いた姿、枯れる少し前の姿を想像して描いた。

 描き上がった木はあと少しだけ押したら倒れてしまいそうな脆い木だった。

 そして、その枯れた木の絵が僕の遺作となった。

 つまりはそんな経緯があって、僕はきれいなものを汚らわしく描いている。

 意味がよくわからなかったって?

 すまないね、言葉で説明するのは苦手なんだ。

 何故そんなことをするのかは僕の絵から読み取ってくれ。

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