第200話:ミリオム~始まりの魔人~

「ウラァ!」

 炎に焼かれ命尽きる直前、せめて一撃でもと飛びかかった。

 が、しかし。

 その黒い手が捉えたのは俺を焼いた彼ではなく、薄く脆い膜。

「ん、君は元気がいいなぁ。どこから来たんだい?」

 そして、膜が破れ目の前にいたのはどう見ても戦えそうにない優男だ。

「どこから?」

 そう問われ、辺りを見回す。

 今の今まで戦っていた魔王城は影も形もなく、森だったはずが室内。

 少し前までいた真っ暗な部屋とは対照的にその室内は白で統一されていた。

 唯一色彩を持つのは目の前にいる男と自分自身。

「ここはどこだ? 僕は、僕はどうやってここに来た、どうやったら元の場所へ帰れる」

 どこから来たのか、そう問われてもそもそもここがどこかわからない、いつの間にか焼けた肌は元に戻っており、すぐにでも彼との戦いに戻りたい。

 目の前にいる男と戦っても楽しめなさそうだ。

「ああ、元気だからもしかしてと思ったけど、やっぱり自分の状態がわかってないんだね」

「僕の、状態?」

 何だこいつは、意味の解らないことを言うな、まるで今の僕が普通の状態ではないようなことを言うではないか。

「どういう意味だ?」

「ああ、落ち着いて聞いてほしい。もし、これを聞いて僕を殺したくなってもどうか我慢してくれ。僕もできれば他人を傷つけたくはない」

 おかしなことを言う、まるで僕を傷つけられるかのような物言いだ。

 そして彼は口を開き、こう告げた。

「君は死んだ。ここは所謂、死後の世界というやつさ」

 なんだって、僕が死んだ?

「君はなんらかの理由で命を落とし、ここで生まれ直した。二度と今までいた場所には帰ることはできない」

 重ねて告げられる。なるほどね、焼けたはずの僕の体が無傷なのもそのせいか。

「ショックを受けたかい?」

 呆然としているような僕の様子を見て心配になったのか声をかけてくる。

「いいや、納得しただけさ。ところで、君はさっき興味深いことを言っていたね」

「何か言いましたっけ?」

「僕を傷つけたくない、とか」

 本当に傷つけることを心配していたとしたら、ぜひとも戦ってみたい。

「ああ、それですか」

「本当に、僕を傷つけられるとしたらやってみなよ」

 言ってから、軽く踏み込んで彼の視界から外れる。

 死角から急所を狙って一撃打ち込む、見たところ反応すらできていないようだ。

 しかし、その攻撃はビシッという音を立てて当たる直前に止められた。

 見えない壁だ、魔法か?

 その壁は恐ろしく硬く、殴った拳を痛める程だ。

「なるほど、これで傷つけるというわけか」

「ええ、まぁそういう訳で、少しお話聞かせてもらえます? まず初めにお名前と年齢辺りから」

 顔色一つ変えない、もしかしたらこういうことにも慣れているのかもしれない。

「しかたない、名前は――」

 名前は、なんだったか。

 永遠に等しい時間名前なんて呼ばれていなかったから、すぐには思い出せない。

「確か、そうだ」

 少し考えて、最後に呼ばれた時のことを思いだす。

「僕の名前は、ミリオムだ」

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