第177話:イムデラ-ラストルⅣ〜冬の雷〜

 寒くなってきて、空気中の水分が少なくなってきたこの時期、電獣ビリは表に出てくる数は減るものの最も強力になる。

「それにしたってこれは、ねぇだろ!」

 思わず叫ばずにはいられなかった。

 人通りがない路地裏の一角がバチバチと音を立てていた。

 大型の電獣ビリが俺の存在に気付き攻撃してきたのだ。

 その電獣ビリの強さときたら、前の世界では一度も見たことがないレベルの強さだ。

「巡回中に想定外の超級電獣ビリと遭遇、増援求む!」

 走り追いかけられながら通信で助けを呼ぶ。

『……ザザッ……』

 が、通信機からはノイズ音だけが帰ってくる。

「ちくしょう!」

 通信機も電獣ビリの出す電磁波でイカれている。

 通常の電獣ビリであれば壊れるなんてあり得ないようにプロテクトをかけてあるというのに、いや、通信機本体ではなく飛ばしている電波を乱されているのか。

 どちらにせよ、通信機も使えないのであれば助けなど呼べない。

 一人で何とかするしかない。

 大丈夫、以前よりも装備は整っている。

 なんとかなるはずだ。

 人通りが多い通りに出るわけにはいかない、ので、人通りのない裏道を走って逃げ続けていたが、そろそろ逃げ回るのにも限界だ。

 後ろからくる、電獣ビリ携帯端末デバイス越しに見ながら、攻撃を避けて走るなんて、やっぱり無理。

 寒さのせいでミストボールも効果薄いし、絶縁シールドも周囲の導体の多さのせいでカバーしきれない。

 死ぬかもしれない、いや体は無事に済むかもしれないが、脳は破壊されて乗っ取られる可能性もある。

『……ザザッ……にげ……だ』

 ん、なんだ?

 通信機から声が、復活したか?

『……にげて……だ……げん……』

 徐々に聞き取れるようになってきた通信機から聞こえてきた声はえらく機械的な音で、知っているオペレーターのどの声とも違った。

『逃げても無駄だ、人間!』

「うわぁ!」

 この声は、まさか、目の前の電獣ビリか!

『無駄な抵抗はやめて我に体を差し出せ』

 間違いない、まさかこの電獣ビリ、人間の言葉を理解したのか?

 ありえない、かつて電獣ビリが人の言葉を話したことなど一度もなかった。

 この街の高度な電気文明に触れて成長したのか?

 非常にまずい、普通の電獣ビリなら乗っ取られてもゾンビのようになるだけだが、ここまでの知能を有している電獣ビリに乗っ取られたら本部を壊滅させられかねない。

『貴様のようなものを待っていたのだ、我と戦う力もなく、我の元に迷い混んでくるハンターを』

 今までは特に本気ではなかったのか、先ほどまでとは全く違う速さで動き、俺の周囲を電撃が取り囲む、携帯端末デバイスを通さずとも見えるレベルのエネルギーだ。

『貴様を足掛かりに、ハンター共を全て食らってやる。我が同胞を何年にも渡り、消滅させてきた忌々しいハンター共をな』

 ん? なんのことだ?

「まて、俺達の組織と別の組織がお前らを倒していたのか?」

『なんだ、言い逃れでもする気か? 聞いてやろうではないか』

「俺達の組織がここに電獣ビリハンターを寄越したのは俺が最初のはずだ」

『つまりなんだ、自分では我の求める組織を潰すことはできない、そう、言いたいのか?』

「そういうことだ」

『ふぅむ、それは困った、人違いであれば仕方ない、見逃してやる』

 助かった、のか?

『等と言うわけがなかバツンッ…………』

 ん? 声が途切れた。

 どうなったんだ?

 気づけば俺を取り囲んでいた電撃は消えており、携帯端末デバイス越しに探しても超級の電獣ビリは見つからなかった。

 代わりに一人の青年がいた。

「いい囮になってくれてありがとうございます、あなた方もアレを狩るものだったのですね、もしや先日の発電所もあなたの仕業で?」

「発電所? ああ、大量の電獣ビリがいたな、あまり強い奴はいなかったから、一通り殲滅したが」

「ああ、やっぱり。まさか他の街からハンターが来るとは思っていなかったので説明していなかったのですが、あれがこの街の電源なので発電所では狩らないでいただけるとありがたいですね」

電獣ビリを電源に……!? この街ではそんなことをしていたのか、して、あんたは何者だ」

「発電所から逃げ出したアレを倒して回っている者ですよ、先程のは小賢しくて困っていたのです、あなたが囮になってくれて助かりましたね、どうです? 聞きたい話も多いでしょうし、これからお茶でも一緒しません?」

「あ、ああ、説明してもらえるというのなら助かる」

「では行きましょうか」

 まだ混乱していたが、明らかに俺よりも電獣ビリについて詳しそうだ、ついていった方がいいだろう。

 まさか、超級の電獣ビリを一瞬で消滅させる者がいるとは思わなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る