第176話:コル-パン〜冬の朝〜

「うー寒いなぁ」

 昨晩は雪が降った、雪なんて生きていた頃は一度も見たことがなかったが、もう慣れた。

 転生してきてしばらくは凍った道路で滑って転んでいたら冬季が明けてしまっていた。

 今でもまだ転ぶが、最初ほどではない。

 そして、転んだときの手の冷たさと、その後来る痒みに慣れるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 そう、立ち上がりながら思う。

 今もまた、転んでいたのだ。

 白く染まった街並みは美しいところもあるが、滑るのだけはよくない。

 どこの世界の文化なのだろうか、一年の内に寒い時期があるなんていうのは。

 少なくとも僕の世界にはなかった。

 いつでも温暖な気候で、年中薄着。

 薄着という概念を知ったのも厚着をする冬季が来るこの世界に来てからなぐらい、寒さとは無縁な世界で生きてきた。

 厚着をするのは何年経っても変な気分だ。

「やぁ、コル。今年も転んでいるの?」

 また転んだ僕に対して声をかけてくる人が現れた。

「……トープか。手を貸してくれると助かる」

「嫌よ、コルは私を引っ張って同じ目に遭わせようとするでしょう?」

「よくわかってるじゃないか」

「そりゃあね、何だかんだで付き合い長いし、それより早く起きたらどう?」

「手は貸してくれない?」

「二度は言わないわよ」

「そうかい、よっと」

 結局トープは手を貸してくれず、自力で立ち上がる。

「なんでトープは転ばないんだ?」

「私は歩くのがうまいの、コルはド下手ね」

「歩くのに上手いも下手もあるもんか」

「現にコルは転んでいて、私は転んでないでしょう、歩き方に差があるのよ」

「そういうものかね」

「そういうものよ」

 話ながらトープの歩き方を見る。

 特に変わった歩き方をしているようには見えないが、それがトープの言うところの上手い歩き方なのだろうか。

 僕もそれを真似してみる。

 ううむ、難しい? いや、無理に意識しているから難しく感じるだけか。

「どうしたの? 下手な歩き方がより変になっているわよ」

「いや、なに、トープの歩き方を真似してみようかなと思ったんだけどうまくいかなくて」

「ああ、そういうこと、考えすぎるとまた転ぶわよ」

「転ばないために真似してるんだけど、ってうわぁ!」

「ほら、転んだ。 手を貸してあげるからさっさと立ちなさい」

「ああ、ありがとう」

 差し出された手を引っ張って転ばせてやろうかと思ったが、妙な抵抗感があり普通に引き上げられた。

「ん? なんか変じゃないか?」

「なにが?」

「なんか、今引っ張りあげてもらうのに違和感が」

「ああ、それね。私は滑らない靴を履いているから引っ張って転ばそうとしても駄目よ」

「へぇ、滑らない靴ね。ん? じゃあ転ばない理由って…………」

「ほら、立ったのならさっさといくわよ」

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