第118話:ペコ・ラインスⅤ〜幽霊地帯再び〜

「まさか、ここにわざわざ戻るとはな」

「仕方ないだろ、中継点を置くのを忘れたんだから」

「我はなんの不満もないぞ?ここに来るのが嫌なのは君だろう」

 くっ、確かにその通りだ。

 ここに来たくないのも僕だし、ここに来る原因も僕で、ここに来なければならない原因もここに来たくない理由も同じだ。

 この辺りには幽霊が多いらしい。

 多いらしいというのも僕には幽霊が見えないし、感じることも出来ないかららしいと言うしかないのだが、ベティアはここにいると宣言しているので、いるのだろう。

 そして、僕はそんな場所は一刻も早く抜けたいと思い、エンジンの調子が悪くなることも厭わずに全速力で走った。

 その結果、ワープゲートの中継点を設置しなければならないところに設置できず、こうして幽霊地帯に戻ってきたというわけだ。

「うーん、もう少し先か」

 ワープゲートの接続ランプが青になるところを探して来た道を戻る。

 方角が間違っているということはない、太陽に向かって戻ればいいだけだし。

 しばらく太陽に向かって走っていると、ワープゲートの接続ランプが青になると同時に携帯端末デバイスが短くペポンと鳴る。

「なんの音だ?」

 ベティアが僕の方を見てくる。

携帯端末デバイスにメッセージが入ったんだよ、ワープゲートの通信回線と携帯端末デバイスの使う通信回線はどちらもこの中継器で繋いでるからね」

 携帯端末デバイスを確認し、なんのメッセージかを確かめる。

「えーとなになに?『ずっと夜な森で車に跳ねられたという幽霊を保護しました、その跳ねたという車は世界の果てを目指しているというあなたのことで間違いありませんね?調査員をそちらに派遣したいので、街に戻り次第返信をお願いします』だって」

 跳ねた幽霊とは、やっぱり、こないだのアレだよなぁ。

 それにしても、その幽霊が今は街にいるってのはどういうことだ?

「ベティア、一応聞くけど跳ねた幽霊ってこないだのアレだよね?」

「我と出会う前に他の幽霊を跳ねていたのでなければアレだな」

「とりあえず、一旦街に戻るけど一緒に来るかい?」

「もちろんだ、今回は面白そうだしな」

 僕らはサングラスをかけ、ゲートを潜る。



「君が、ペコさんかい?」

 街に戻り、待ち合わせしていたカフェで待っていると、連絡をくれたという死の研究所の人がやって来た。

「我が跳ねたという幽霊は一緒じゃないのか?」

 ベティアが聞く。

「彼女は研究所にいるよ、街に出てはぐれると困るからね」

 ある、幽霊は来ていないのか、よかった。

「それで、調査に行きたいんですって?」

「そうそう、そこから来た幽霊がいるのだから、そこには他の幽霊がいる可能性もあるだろう?僕たちは死について研究しているのだけど、幽霊のサンプルがほしかったんだ。跳ねた幽霊以外の幽霊を見たりしていないかい?」

「いっぱいいたぞ?なぁ」

「なぁ、って言われても僕には見えないし」

「ああ、そちらの方は見える人なんですね」

「うむ、ただの人間とは格が違うからな」

「ほぉ、ちなみにどういう?」

「我はあっちの方角にある山脈の主だ」

「山脈の主、とは?」

 こっちを見ないでもらいたい。

「彼は竜種なんですよ、縁があって人の姿で僕の旅に同行してくれているんです」

「なるほどなるほど、竜種ともなればどんなに外れた存在でも認識することが出来るんですよね?」

「まぁ、我に干渉できんほどの存在ならば存在していないのと同義と言っても良いな」

 幽霊トーク(たぶん)で盛り上がってる。僕は蚊帳の外って感じだ。

「さて、そろそろ行きますか」

「うむ」

 二人が立ち上がる。

「行くって?」

「話を聞いていなかったのか?元々、調査のためにあの場所へ行きたいという話だったろう」

 ああ、そういえばそういう話だった。

「調査をしている間はあの場所でキャンプをするからな、覚悟しておくことだ」

「なんだって?」

「彼は幽霊というものがどうにも苦手らしくてね。そうだ、調査の間はこっちに居たらいいんじゃないか?こっちにも家があるんだろう?」

「そうか、それもいいな。ちなみに調査はどれくらいかかりますか?」

「行ってみないとどうにも言えませんが、長くても秋季の終わりまでには」

「結構長いですね」

「長引いてって話ですから、実際はもっと早く終わると思いますよ」

 まぁ、少しの休みだ。たいした遅れでもない。

「わかりました、いいでしょう。ただし、車は動かさないようにしてくださいね」

「うむ」

「わかりましたよ」

 その後、二人と一緒にワープゲートのある街側の拠点、僕の家に来た。

「ほぉ、個人でワープゲートを所有しているとは、その若さですごいですなぁ」

「まぁ、出資者がいましてね。世界の果てを目指したい人っていうのは結構いるんですよ」

「なるほど、では行ってきますね、久々の休みを楽しんでいてください」

「はい、いってらっしゃい」

 そう挨拶をして二人はゲートを潜っていった。

「ふぅ、どうしようかな」

 そうひとりごちるもやることがない。

 最近は街に戻ることも、食料の買い出しと中継器の補充ぐらいだったし、今回みたいになんの用もないのに街に戻ってきてもやることがない。



 そんなこんなでなにもすることなく10日程が経った。

「そうだ」

 思い付いたぞ。

 今僕が動けないのは死の研究者の人が向こうにいる間は帰ってくる手段のために僕が動けないのだし、向こうに新たにワープゲートを設置してもらえばいいんだ。

 たぶん、彼等の研究資金で簡易的なものが作れるだろう。

 早速提案しに行こう。


「というわけで、ここに簡易的なゲートを設置して、常にここに研究に来れるようにすればいいと思うんですよ」

「なるほど、それはいい考えだね。しかしねぇ、やっぱりそこまでお金を使える研究所じゃあないんだよ」

「うまいこと僕の出資者に掛け合ってみます、一時的に借りて研究の成果が上がって、予算が増えたら返すという形でここにゲートを設置しましょう。技師の人も僕が手配します」

「おいおい、そこまでしても早く出発したいのかい?」

「気づいたんです、世界の果てがどれだけ遠いかもわからない、どれだけの時間がかかるかわからないんです、ならば止まっている暇なんて無いってことに」

 本当は暇だったからだ。

「うーん、そこまでしてくれるのなら、ここにゲートを設置してくれるのを拒む理由がないね。じゃあお願いしようかな」

 よし、これであと少しもすれば出発できるな。

 僕の本心に気づいているであろうベティアは無言だった。

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