第116話:皇勇人Ⅶ〜死後の異世界の異世界〜
「この世界から、異世界に行くことは可能でしょうか」
「なぜそれを私に聞くのでしょうか」
昼過ぎ、今日は狩りの気分じゃないなぁとやって来た行きつけの喫茶店で、マスターに気になっていたことを聞く。
狩りの気分じゃない日は大体ここに来て過ごしている。
この街で日本風の紅茶が飲めるお店がここしかないというのも大きな理由だ。
似たような飲み物とかどの世界にもあるだろと思っていたが、異世界での紅茶の呼称とかわからないから見つけられないし、マスターは美人だしわざわざ他のお店を探す理由とか無いか。
話を戻そう。
「メーティカさんって、なんでも知ってそうじゃないですか」
「それはどういう意味で?理由次第ではセンサーが鳴りますよ?」
他のお店を探す理由ならあった。
ここのお店はマスターの機嫌を損ねると暴力によって返されるんだった。
よほど迂闊な発言をしない限りは大丈夫だが、これはヤバいな。
「い、いやぁ、ここは喫茶店で、メーティカさんはいろんな人と話してるでしょ?だからいろんなことを知ってるんじゃないかなぁって」
「おばあちゃんの知恵袋、って、なんだ?」
そういえば、この喫茶店にはもう一人いた、妙に勘が鋭くて、読心術が使えるんじゃないかと疑っている子だ。転生してきた時期は俺とそう変わらなさそうだ。
ピー
センサーが鳴った。
「おばあちゃん扱いですか…………」
「言ってないですからね?」
「そうですね、言わなかったことに免じて、軽く手刀で済ませてあげます」
「あいたっ」
結構痛い、軽くしてこれってことは、言っていたらどうなっていたのか。
「それで、異世界に行ったりする方法は知らないんですか」
「そうですね、このお店は結構いろんな人が来ますが異世界に行くって人は来たこと無いですね」
やっぱり、この世界から異世界に行く方法は無いのか。
「そもそも、なぜ異世界に?この世界もハヤトさんの世界から見たら異世界でしょう?」
「この世界も異世界と言えば異世界なんだけど、なんでもありすぎるっていうか」
「ああ、旅行で多少の不便さをレジャーとして味わいに行きたい、と」
「有り体に言ってしまえば、そうです」
「一応、異世界に行く方法を知っている可能性があるお客さんは何人かいますが、いつくるかはわかりませんよ?」
「ああ、ここいつも人いませんしね」
ピー
「あいたっ」
「いいんですよ、毎日誰かは来るので朝イチで来て閉店まで待っていればそのうち異世界に行く方法を知っている人も来るでしょう」
あんまりよくなかったから叩かれたんだろうな。提案もどことなく怒ってそうな内容だ。
「来たら連絡してくれたりとか」
「しないです」
少し怒っている気がする。
なんでだろうか。
明日からどうするかは明日になってから決めるか。
とりあえず今日は閉店までいてみよう。
カラン
日も衰え始める時間になって、ドアベルが鳴る。
あ、あの人は、名前は聞いてないけど知ってる人だ。
そう転生してきたときに案内してくれた人だ。
「あら、ルルニアさん、今日はもうお仕事終わりですか?」
「はい、あとはロボに任せてきたので、今日はもう終わりです」
「そうだ、ちょうどルルニアさんに用がある人が来てるんですよ」
どうやら、この人が異世界に行く方法を知っているかもしれない人らしい。
いきなり来るとは運がいいな。
「えーと、あなたはハヤトさん、でしたか」
「覚えてるんですか?」
「ええ、私が担当した人はすべて覚えていますよ、ハヤトさんは比較的最近ですし、よく覚えています、幽都に行ったんじゃなかったんですね」
最近ってもう大分前だと思うんだけど。
「それで、私になんの用なんですか?」
昼頃にメーティカさんに伝えた内容と同じようなことを伝える。
「異世界に行く方法ですか、無いですね」
「ないんですか?この世界はなんでもあるし、異世界に行ったりする方法とかもあるものだと思っていたんですけど」
「この世界には確かに何でもありますが、いくつか他の世界にはあっても、絶対に存在できない事象があります」
絶対に存在できないとは。
「一つ目はあなたが来たときにも説明したように、転生以外の方法で生物が増えること」
確かにそんなことを言っていたような。
頷いて続きを促す。
「二つ目、不死。もとの世界でどれ程優れた不死を持っていても、この世界でその不死の術は再現できません、なので不死にしてあげる詐欺というものが一時期流行ったらしいです、元が不死だった人はこの世界でのはかない命に不安を感じることが多いので」
不死の人がこの世界に来るっていう状況がわからないが、この世界ではどうやっても殺されたら死ぬということだろう。
不死にしてあげる詐欺ってなかなか、すごい話だな。
「三つ目が他の世界とこの世界を繋ぐことです、この世界がどういう存在なのかは研究されていますが、未だに死んだ者が来る世界以外のことは大してわかっていません。
ただ、どの世界で作られた世界間移動の方法もこの世界では使えなくなります」
よくわからないが、この世界では生まれることと、死を避けること、他の世界へ行くことはできないということらしい。
「唯一、他の世界へ行く可能性がある方法もありまして」
「あるんですか?」
「死ぬことです」
「は?」
「この世界に来たように、死ぬことで他の世界に転生できる可能性はゼロでは無いということです、まぁこの世界に来るのが二度目という人は今までにいたことがありませんから、可能性は限りなく低いんですけど」
やっぱり、異世界に行く方法はないということらしい。
「まぁ、異世界旅行がしたいだけであれば、この世界の中でも自世界の文化を守っている国に行ってみるというのもいいと思いますよ、結構いろんな国がありますから」
「少し考えてみます…………」
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