第107話:ルーニード・モンスⅢ〜異世界グルメ調査〜
「グルメ調査?」
「そうです、グルメ調査です」
「他に持ってけ、うちは何でも屋じゃねえ」
あと、味なんてよくわからんしな。
「そんなこと言わないでくださいよぉ、今回依頼したいお店はどこも特殊でして、あなたに頼むしかないんですよぉ」
特殊なグルメ調査とはいったいなんなのだろうか。
少し興味がある、話だけでも聞いてみるか。
「実はですね、今回行ってもらいたいお店は人間向けではないんですよ」
「帰れ、流石に人間向けじゃない店で食って腹壊したり、最悪食材にされたくはない」
人間を食材にするという話は噂程度では聞いたことがある、実際にそういうことがあったという話は表には出てきてないし。
「話は最後まで聞いてくださいよ、なにもそのままの体で行ってもらおうってわけじゃないんですよ。
今回私は、変身薬を用意しました、この薬を使えば一時的に他の種族に変身することができ、その種族の料理もおいしく、安全に戴くことが出来る!というわけでして」
「それなら、自分で行けばいいだろう」
「もちろん、私もいきますよ。
しかし、流石に一人で行くというのは些か不安というもので、共に行ってくれる人を探した結果、あなたにたどり着いたというわけです。
あなたは、少しでも興味が湧いた依頼ならばどんなものでも受けてくれるということで有名なので」
そんな風に有名なのか。
間違ってはいないが、微妙な気分だ。
「他種族の料理、興味ありません?」
「しかたねぇな、その依頼受けたぜ」
不本意だが、興味がないと言えば嘘になってしまう。
依頼人と二人、変身薬を使い他種族になる。
まずはボロメニア。
岩のような肌をし、力も強い種族だ。
食べるものは、石だ。
「あのよぉ、最初から石ってのはハードル高くないかい?」
「そうでもないですよ、この後行くところに比べたら全然ましです」
この後どこに行くのか不安でしかなくなることを言わないでくれ。
「それにここはただの石食種達の大衆食堂ではなく、高級店です。
料理された石が出てくるのですが、ここでしか見られない、まさに芸術と表現するに足りる、寧ろその表現では足りないほどの美しい石が出てくるのですよ」
「見て楽しむだけならそれでいいんだけどなぁ、食べるとなると」
「珍しい体験が出来ると考えればいいだろう」
「まぁ、そうなんだが」
まさか、こういう異種族の料理だとは。
もう少し、人間をあまりいい目で見ていないような種族の料理を食べに行くのかと思っていたが、とんだ誤算だ。
もうここまで来て逃げるわけにもいかない。
腹を決めて石を食うしかない。
依頼人が適当に注文して、俺もそれに倣う。
メニューを見ても石の料理なんてちんぷんかんぷんだ。
注文するとすぐに料理は来た。
運ばれてきた石を見て驚愕する。
なんだこれは、先程依頼人も言っていたが、まさに芸術、これが料理であるなどと言っても信じる人間はいない出来だ。
いや、人間からしてみれば料理ではないのだが。
カラフルな魔石を溶かし、繋ぎ、磨きひとつの美しい塊にしている。
そして、何よりも恐ろしいのが、俺の胃がこれを食べ物だと認識し、腹を唸らせていることだ。
体がボロメニアになっているせいでもあるのだろうが、俺はこれを旨そうだと思っている。
この石が凄いのか、変身薬が凄いのかはわからないが、俺はこの石を食うことになんの躊躇いもなかった。
まずは一口かじる。
うまい、うますぎる。
俺の感覚はボロメニアのそれそのものになっているのでものすごい旨いということはわかるのだが、語彙が人間のままなので、この旨さを表現する言葉がない。
隣の依頼人を見てみると、涙を流していた。
ボロメニア特有の透き通った緑の涙だ。
それほどに旨い。
残りもすぐに食べ終えてしまう。
支払いは、依頼人もちだ。
こんなにも旨い料理だ、それなりの値段になるのかと思ったが、聞いてみると案案外安い。
石自体はありふれているものらしく、材料費がそんなにかかっていないことと、客の数が多いので利益を減らしてもやっていけるのだという。
それでも、客が増えればあんなに凝った細工の料理を提供し続けるのは大変だろうと思ったが、注文したらすぐに運ばれてきたことを思い出す。
なるほど、料理とは言っても石だ。
生物ではないし、鮮度が重要ということもなく多量に作り置きされているんだろう。
注文が入ってすぐに提供できるのであれば客の回転率もいいだろうし、現に俺たちも注文してから半時もせずに席を立った。
ボロメニアの店ってのもよくできているなぁと感心しながら帰る。
事務所に戻り、
「さて、今日のところはこれで終わりだな。人間に戻る薬をくれ」
さすがに、ずっとボロメニアの姿のままでいるわけにもいかない。
と思っていたのだが、
「すまないが、まだ人間に戻る薬は準備していないんだ」と依頼人は言う。
なんでも、食べたものが完全に消化されて、体内から消えるまでは戻るわけには往かないのだという。
「それで、さっきの石が体から消えるまでの時間は?」
「ざっと、夜の色が一週するくらいだな」
ふっざけんなー!と叫ぶも、まだ戻れないものは仕方がない。
しばらくはこの姿のまま、休業中の札でも表に出しておくか。
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