第106話:メロベル〜被破壊衝動〜

 せっかく、私を壊すことが出来る者が現れたと思ったのに、こんな世界に飛ばされて、またもや壊されるのを待つ日々だ。

 先日も私を狙う者に襲われてみたものの、私の皮膚にすら傷をつけられない雑魚だったし、この世界では私を壊せるものに出会うことはできないのではないだろうか。

 全く、不快だ。


 今日の夜は、赤か。

 赤い夜の日は嫌いではない。

 赤の日は、人を破壊に駆り立てる。

 すべての人がそうなのかはわからないが、少なくとも私の触れてきた人々はそういうものだった。

 先日もそうして赤の日に隙を見せ、死角の多い場所に佇み、破壊を誘った。

 結果は無惨なものだった。

 彼は手際はよかったが所詮は人殺し、人の姿をしていても人ではない私を壊すには至らなかった。

 どうやれば、私を壊すことが出来るのだろう。

 あいつはどうやって、私を壊したのだろう。

 前の世界で私を壊したやつのことを思い浮かべる。

 ヘラヘラして、軽薄で、自分の意見など持っていないかのように人の話に流されて、それでいて、世界を変えるような奴だった。

 そんなあいつがどうやって私を壊したの か、思い出せない。

 あいつの一撃が私の胸を破り、私の心臓を砕く。

 そのときの感覚は思い出せず、思い出せるのは、あいつの涙を貯めた目だけだ。

 思い出すのも不快だ。


 それにしても、赤い光に照らされていると、私も破壊衝動というものに目覚めそうになる。

 人ではなくとも、赤という色には破壊を促す効果があるんだろう。

 赤く光る太陽を見ながら踵を鳴らす、この程度のことで道のタイルにヒビが入る。

 しかし、このタイルはしばらくしたら修繕される。

 この破壊は不可逆なものではない。

 破壊するということは、不可逆なものでなければならない。

 誰か、私のことを破壊してくれないだろうか。

 不快だ。


 この世界には様々な破壊兵器があって、赤い夜の日はそれらを試して回ってるのだけど、どれとして、私の肌に傷ひとつ付けることは叶わない。

 今日など、最も破壊力のあるとされる兵器を試しに行っていたのだが、一切のダメージも受けず、いつも通り、服が消し飛んだだけの結果に終わった。

 やっぱり、あいつがこの世界に来るのを待つしかないみたいだ。

 それでも、自身を破壊する方法の模索はやめない、赤の日にはこの世界にある、あらゆる破壊をこの身に受けることを続けよう。

 まったく、不壊にも程がある。

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