第101話:フソック〜VRダンジョン〜
敵に囲まれた。
俺達は慌てることなく、三人の戦士で背中合わせの輪になり、魔法使いを庇う形になる。
敵の攻撃でHPが少しずつ削られていくが、詠唱をが完成するまでに倒れるようなダメージはなく、他の二人も同じような状態だ。
HPがあと三割を切ろうとしたところで魔法使いの詠唱は完成し、周囲の敵全てを巻き込む爆発が俺達を中心に発生した。
何度経験しても慣れないが、この派手なエフェクトの爆発の効果範囲内にいるというのに、一切熱も衝撃も感じない。
髪や鎧の留め具などが多少揺れる程度しか爆風を感じることができないのだが、エフェクトの派手さや敵のぶっ飛び方との差に感じる違和感は拭えない。
派手なエフェクトと倒れた敵から得たポイントの表示で埋め尽くされた視界の外から生き残った敵が来ないか警戒しながら、視界が回復するのを待つ。
光と煙のエフェクトが薄れ、敵に囲まれる前と同じ景色に戻る、撃ち漏らしはないようだ。
そのまま、その場で、
「回復頼む」
「はいよ」
「やべっ、ポーション切れたわ、誰か余ってないか?」
等々、一戦終わった後の回復などしながら雑談。
「ポーション切れたなら帰るか?」
提案してみる。
アイテムが切れた状態でダンジョンに潜り続けるのはあまり気が進まない、デスペナルティ軽いものじゃないし。
「私が余分に持ってきてるから大丈夫ですよ〜」
「魔法使いって持てる量少ないのにどうしてるの?」
「守られてるので消費も少ないのですよ〜」
「あー、なるほどね。俺も次は魔法使いやってみようかな」
「教えますよ〜」
「同時に二人が魔法使いやったら前衛足りなくなるじゃん」
俺の提案は却下され、ダンジョンの深層でピクニックでもしてるんじゃないかというぐらい和気あいあいと話が弾む。
緊張感とは無縁の世界だ。
この調子ではいつまで経ってもこのダンジョンを制覇することなど不可能だな。
今回も死に戻りして、レベルが二つほど下がる、そしてまたダンジョン制覇が遠退くのだろう。
流石に、このレベルで2レベルも下がるのは避けたい。
あまりこの手は使いたくないのだが、
「すまない、急用ができた。しばらく落ちる」
「あー、フソックが落ちるってなると、これ以上は進めねぇな、仕方ない、街に戻ろう」
よし、これで今日は撤退する流れになったな。
「あー、俺はもう少し残ってくわ」
なぜだ、流石にこの深層でお前のような防御特化の戦士が一人で狩れる敵などいないぞ。
「じゃあ私も残りますよ〜」
なぜお前まで残るんだ、火力不足を補おうというのならば正しい判断のように聞こえるが、この深層では盾役が一人では守りきれないぞ、魔法使いのレベルが下がるのはあまり歓迎できない。
今までは一撃で仕留めることができていた敵を撃ち漏らす可能性が上がるだけだぞ。
既に個人的な理由で落ちることを宣言してしまっているから、これ以上口を出して輪を乱す訳にもいかない。
排斥されるかもしれない、それほどまでにこの彼らとの縁は薄い、よくパーティーを組むという間柄なだけであり、他での絡みなど一切ない。
あまり、新しいパーティーに入れてくれと声をかけるのは得意ではないし、このパーティーから追い出されてしまうのは好ましくないし、黙って落ちることにしよう。
ゴーグルを外して一息つく。
俺はゲームの世界を堪能するためにやっていると言っても過言ではない。
ダンジョンの最深部を目指すのも、そこに何があるのかを自分の目で確かめたいからなのだが、一人で攻略することもNPCを仲間にすることもできない為、仕方なく他人とパーティーを組んでいるのだ。
しかし、俺はどうにも他人とパーティーを組むということに向いていないと言わざるを得ない。
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