第91話:橘慶太Ⅱ〜自分に自伝を語る〜

 この世界に来て、しばらくしたある日、見たことがあるようなないような、そんな気がするお兄さんが訪ねて来た。

「やぁ、はじめまして、ってのもおかしな話か、初めて自分と交わす挨拶ってどうすればいいんだろうね」

「はぁ?」

 どうやら、前に聞いていた、始めに死んだときに転生してきた俺らしい。

 あー、見たことあるというか、あれだな、こないだ、死ぬ前の俺の顔にそっくりなんだ。

 ゴツさが薄く、丸めの顔になってたから気づかなかったな。

 俺があの世界で過ごしている間にこっちの俺は同じだけ成長していたってことか。

 ただ、あの世界での生活とこの世界での生活の質は天と地ほど差があるし、平和に育ちましたという顔になっている。

 このままこの世界で過ごしたら俺もこの顔になるのだろう。

 それで、だ、

「なんで今、俺の方を訪ねてきたんだ?」

「異世界に転生した俺は世界を救って死んだって聞いてさ」

「ああ、世界を救えたかどうかはわからんが、確かに転生した先の世界で、冒険して、世界の脅威と戦ったよ。

 それがどうかしたか?」

「それがどうかしたか?だって!?どうもしないわけないだろ!」

「いや、お前のいっていることもよくわかる、ひとつ世界を救ったのに、それを誇らないのかってことだろ?」

「ん、そういうことだよ、わかっててその物言いなのかい?」

「そうだな、一度さ「世界を救った勇者の会」というのに参加したことがあってさ、意外といるんだよ、世界を救った勇者。

 この世界だとたいして珍しくないみたいなんだけど、そいつらはさ、殆ど、世界を救ったあとも生きてたんだよ。

 俺みたいに、魔王を倒したと思ったら、自分も死んでた、みたいなことはないわけ、俺の場合はしっかりトドメを刺せてあるかどうかすら怪しいんだ。

 もしかしたら俺が死んだあとに魔王が復活して世界を滅ぼしたかもしれないって考えるとさ、やっぱり、胸はって「俺、世界救いました!」とは言えないわけよ。

 わかってくれるよな?お前は俺なんだから」

「なるほどな、確かにそういうことなら誇らないな、俺はそういうやつだ」

「わかってくれるか、さすが俺だな」

「わかったから、俺にお前の冒険譚を聞かせてくれ、色々なやつの話は聞いたことがあるんだが、やはり自分が経験した冒険となると、格別だからな」

「ああ、そういう目的で来てたのかよ、確かに昔の俺は冒険譚が好きだったな」

「今でも好きだぞ?」

「そうは言っても、実際に体験するとな、読んだり聞いたりでは微妙な奇聞になるもんなんだよ」

「そういうもんか」

「そういうもんなんだよ、まぁいいや、どこから話す?」

「異世界だって気づいたところからで頼む」

「よしきた、俺は学校の帰り、歩いていると突然」

「そこは俺も覚えてるから異世界に行ったところからで」

 そりゃそうか。

「うーん、じゃあ、森の中で目が覚めたところからかな」

「ファンタジーだな!」

「ああ、ファンタジーだ、ファンタジー、俺は森の中、すっげぇでかい木の下で目を覚ましたんだが、」

 そんなこんなで、俺は俺に対して俺の冒険の話をすることになった。

 ここから、20年に渡る冒険の内容を話しきるのに、丸2日かかり、そのまま魔物を狩りに行ってみたいとか言い出した俺に付き添って魔物ハンターギルドに登録し、魔物を狩りにいったりした。

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