第75話:メロウ-パルパス〜ワープゲート開発秘話〜
「いやー、まさか9300万パソも入るとはなぁ」
「ええ、これで当面の資金はなんとかなりそうですね」
「そういえば助手君よ、久々にワープゲートを使ったが、あれは魔術的なものは一切使っていないのか?」
「使ってませんよ、もし使っていたらテルヴィアにあるわけないじゃないですか」
「ふむ、魔術を用いずに科学の力のみで物質転送をしているとは、量子転送かな?いやしかし、」
室長は帰ってくるなり考え込んでしまった。
こうなってしまうとしばらくは話しかけても無視されるし、どうしたものか。
そういえば、ワープゲート開発か、懐かしいな。
もうずっと前の話、何年前だっただろうか。
僕はワープゲートの開発に携わっていた。
当時、この世界での主要な交通網は車か大魔導師による転送魔法が主流で、今ほど国同士の交流がない時代。
そんな時代に持ち上がったのが、世界を今までよりも短く繋ぐ計画、長期利用が可能で汎用的な転送装置、つまりはワープゲートを作るというものだ。
計画の序盤はとてもスムーズに事は進んだ。
それはそうだ、ワープゲートが存在する世界などたくさんあるし、この世界には開発者が
いたりする。
彼らはすぐに試作のワープゲートを作ってきた、そして物を転送する実験は当然のようにクリアできたが、問題はここから先にあった。
生物を転送すると、転送先での生命活動は確認できなかった、つまり、死んでいたのだ。
これでは使えない、当然だ、物質を転送するだけならまだしも、この計画の目的は人を転送することなのだ。
当然開発者達は各々の世界で実用化され、日常的に人々が使っている物を持ってきている。
原因は不明で、ワープゲート開発はここで何年も滞った。
ある日、一人の研究者が「この世界での死亡率が100%なら、他の世界でも転送で死んでいる奴がいるんじゃないか?」と言い出した。
皆は自分の世界で使われている物に限って事故が起こるわけないだろうと言いたげな顔になったが、実際この世界で動かすと100%の確率で死体ができるし、他にアイデアもなかった為、転送で死んだ人を探してみることになった。
それは意外な程すぐに、それも大量に見つかった。
話を聞いてみれば、皆、ワープゲートを潜ったと思ったらこの世界に来ていたという人で、同じことをいう同じ人が何十人もいることもあった、もちろん不死の人ではない。
それを踏まえて再び会議をした結果、転送の際に肉体を情報化したり、分解して、転送先で再構成する形式のワープゲートでは、転送時に一度死んでいるということになった。
この世界では新たな命は生まれず、死んだものは生き返らない。
そして、転送先での再構成は蘇生だったり、記憶を持った状態で生まれる新たな生命だったりと判定されるらしく、転送すると死ぬのだ。
科学の世界で採用されていたワープゲートはすべてが分解し転送先で再構成というプロセスを踏んでいて、なぜ転送魔法はこの世界でも成立するかの話になる。
ここで白羽の矢がたったのが、僕だ。
当時から魔法参考科学室に所属していた僕は、転送魔法を科学的に分析し、一年ほどかけ科学の力のみで空間を歪め、転送元と転送先を物理的接触状態にする技術を確立した。
そうして、この世界にワープゲートが配備され、世界の距離は近づいたのだ。
うーん、懐かしい。
あの頃はまだ、各世界の協力が難しくてあまり進まなかったんだよなぁ。
「助手君、新しいワープゲートの仕組みを考えてみたのだがどうだろうか」
「うーん、流石に9300万パソあっても新型ワープゲートの配備は難しいんじゃないですかね」
「ふむ、そうか。しかし、9300万パソもあるとなんでもできる気がするな!」
「そうですね」
さて、今日もこの無茶苦茶ばかりする室長の相手をしましょうか。
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