第71話:ウナ・ローンⅢ〜大魔導協会主催大海横断レース後編〜

 研究費が、足りない。

「なぜ、こんなにもお金がないんだ、雨避けアクセサリーは売れまくったのだろう?」

「あれは売れましたけど、元々予定になかったんですから、うちの利益として計上されるまでには時間がかかるんですよ。むしろ、あれに無駄に予算を割いたせいでお金がないんですよ」

「ぐぬぬ、そういうことか。どうしたものか」

「そんなことより、これ考えてくださいよ」

 助手君が上から回された書類を一枚渡してくる。

「はぁ?大魔導協会の大海横断レース?こんなの魔術の相手を科学だけでしようなどというのが間違いなのだ、特に魔機構技師のやつらは魔術に機械工学も使うのだぞ?もとより勝てるわけがないのだ、真面目に参加するだけ無駄というものだろう」

「上からの話だと、賞金を丸々開発室の研究予算にしていいそうですよ」

「残りの予算と、今使える設備のリストを寄越せ、やるからには絶対に勝つぞ」



 あまり時間はかけられなかったが、出力だけ見れば十分なできだろう、去年のやつらの記録を上回るタイムでゴールできるはずだ。

 まぁ、出力のことしか考えてなかったから、乗り心地とかまでは気が回らなかったのだがな。

 まぁ、乗るのは私ではないし、どうでも良い。




「さて、助手君体調はどうかね?」

「気分は最悪です」

「それはよかった」

「よくありませんよ!何で室長が乗らないんですか!」

「これを作ったのは誰だい?」

「室長ですよ」

「では、君はこの大会のために何ができる?これに乗るしかないだろう?」

「わかりましたよ、乗ればいいんでしょう、乗れば」

「いいね、君のどうしようもなくなったときの諦めの早さは好きだよ」

「誰のせいでこうなったと」

 さぁ、私はその人と会ったことがないのは確かだね。



 出場選手の紹介も終わり、魔機構技師どもに対する挑発も済ませた、助手君もスタート位置に向かった、あとは開始を待つだけだ。

「お、あんたが乗るんじゃないんだな」

 こいつは確か、魔機構技師のとこの

「付き人だったか」

「ちげーよ、同僚だ」

「先程はしもべのように見えたが」

「まぁ、似たような扱いはされているが、あくまで同僚だ」

 うちの助手君と違って従順というわけではないのだな。

「それで、あんたは乗らないのか?」

「はっ、私は研究者だぞ?作るのが仕事であり、動かすのは別のやつだ」

「さっき見てきたけど、そいつも研究者なんじゃないのか?」

「助手というのはこういう時に使うものなのだよ」

「そいつも大変だな」

「研究者の助手の仕事は、私の無茶に応えることなのだよ」

 まったく、できた助手君だ。




 そろそろスタートの時間だな、関係者席に移動するか。

「負けないからな」

「どちらかと言えば、俺は一度でもあいつが負けるところが見てみたい、あいつが打ちのめされてるところは見たことがないからな」

「ならば君は私達の応援をするが良い」

「そうしたいところだがそれはできん、負けるところが見たいのと、敵を応援することは違う気がするんだ」

「む、そういうものか」

「まぁ、あとでバレた時のことが怖いってのもあるけどな、絶対バレるし」

 彼と彼女はいったいどういう関係なんだ、謎だな。

「お、スタートみたいだぞ」

「うちのタクストームナクロンはな、圧倒的だぞ」

 ボボボボボッ!

 コースの方から爆音が連続して響いてくる、あれこそ、爆破推進機の音。

「大丈夫かよ、爆発してるぞ?」

「しかし、速度は中々のものだろう?」

「確かにぶっちぎりだな」

 タクストームナクロンに搭載した爆破推進機は海中にエネルギー塊を放り出して爆発させ、その爆発の方向をうまいこと調整することで船体を吹き飛ばすというものだ。簡単で、適当に調整するだけで済んだ。

「あんな爆発を起こすエネルギーはどこから取ってるんだ?あの船体にそれを賄えるバッテリーが積んであるようには見えないんだが」

「推進する際に海水を取り込んでいる、それを半物質転換炉を通し、純粋エネルギーに変換している、無限に走ることができるぞ」

「訳がわからん」

「貴様、それでも技術者か?」

「天才の考えることは凡人にはわからんのだよ」

 魔機構技師もこの程度か、圧勝だな。

「いやー、テルヴィアの技術力なめてたな、でも、うちもすげぇ」

「な、」

 うちのタクストームナクロンの起こす水煙に紛れて見えてなかったが、走る君、ふざけた名前だ、も早い、海面から離れ、滑るように走っている。

「あいつは、普段はふざけまくっているけど、作るものは信頼できるんですよ、無茶もするんですけどね」

 今はタクストームナクロンの後ろを走っているが、その差はどんどん狭まってきている、このままでは抜かれる?

「助手君、追い付かれるぞ、加速しろ」

 通信機を用いて助手君に指示を出す、返事は爆音にかき消されて聞こえない、これはこっちの指示もあっちには聞こえていまい。

 操縦席の防音性能にもう少し気を回すべきだったか。

 距離はあと100クロンあるかないか、徐々に詰まっていく、それが80、50と迫っていき、

「「あ、」」

 走る君がタクストームナクロンの作る爆発に巻き込まれた。

「おい、あれは大丈夫なのか?」

「走る君の耐久性能次第だ」

「軽量化のためにペラペラだぞ」

「死んだらすまない」

「軽く言ってくれるな」

 爆発に巻き込まれ高く打ち上げられた走る君は、タクストームナクロンの前方に投げ出され、残骸がタクストームナクロンにぶつかった。

「ヤバイな」

 そのまま、タクストームナクロンが爆発した。

「大丈夫なのか?本当に大丈夫なのか?」

「これは、ダメかもしれんな」

『おーっと!走る君とタクストームナクロンが衝突!操縦士は無事か!?』

『無事ですよー』

 大スクリーンに、魔機構技師のパイロットが大写しになる、飛んでる?

『タナなんとかの操縦士もこのとーりー』

 小さな体で助手君の無駄に大きいからだをぶら下げている、マジックアイテムの力だな。

 結局、タクストームナクロンも走る君もリタイアになり、優勝はオルゴオルゴボルコだった。



 レースが終わり、表彰式も終わって、タクストームナクロンも海の藻屑として消えた。

 さて、帰るとするか。

「へーい、そこの博士ー?」

 この妙に伸びた話し方は。

「何の用ですか、魔機構技師」

「いやー、お困りなんじゃないかとー思いましてねー?タナなんとかを壊してしまったのはー、私なのでー、お詫びとしてこんなものをー、持ってきてみたんですけどー」

「なに?」

 渡されたのは一枚の紙、情報コードがプリントされている。

「あと一時間もしないうちにー受付が閉まってしまうのでー、換金するならー急ぐことを推奨しますがー?」

「換金?」

「ええー、それはー、オルゴオルゴボルコに賭けたー、チケットですー」

 ええと、つまり…………大金と交換できるチケットか!そういえばレース開始前にビーンデローンに賭けるようなことを言っていたな。

「いいのか?」

「うちは資金で困っていないのでー、あと、タナなんとか、いい機体でしたねー、科学の力というものも、なかなか侮り難いですなー、来年もやる気を出してー、いただけるとーやりがいがあるのですがー」

 なるほどね、同情されているみたいで屈辱だけれども、

「来年は絶対に勝つわよ」

「負けませんよー、ではーまた来年ということでー」

 そう言って彼女は帰っていった。

「そういえば、これ幾らぐらいになるんだ?」

 受付にチケットを持っていったら、9300万パソになった。

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