第59話:パース=ノルノ〜大魔導制御式融合炉〜

「ナット、これはなんだ?」

「なにとはー?」

「これは何で、なぜこんなものがここにあるかってことだ」

 ここは工房棟の空き部屋だったはずで、なにやらゴウンゴウンと大きな何かが稼働する音がしていたから覗いてみたのだが、ナットがでかい何らかの装置でなにかやっていた。

「そーですねー、これは大魔導制御式融合炉ですー、通称【混ぜる君】ですなー」

「大魔導制御式、融合炉?」

 なんだそれは。

「つまりですねー、融合魔法ってあるじゃないですかー、ご存知ー?」

「噂程度にはな」

 確か二つのものの性質を混ぜて一つのものにするんだったか。使える奴が殆どいないレア魔法ってやつだな。

「この混ぜる君はですねー、その融合魔法を魔術式で再現して、魔力を注ぎ込むだけで適当に放り込んだものを適当にまぜこぜしてくれるんですー」

「ほぉ、凄いな。それで、何でこんなもんがこんなところにあるんだ?誰かが使うために買ったのか?」

「いやいやー」

「お前が買ったのか?」

 ナットならこんくらい私財で購入できるぐらいの資産があるだろうな。こいつの作るアイテムは下らないものが多いが、どれも性能や使われている技術だけ見ればとんでもないレベルのものばかりだし、たまに作るまともなもんなんかはやべえ値段で売っているのを見たことがあるしな。

「私が作りましたー」

 どうやら、これもこいつが作ったとんでもないアイテムだったらしい。珍しくまともな方のな。

「それで、いまいち融合魔法ってのがどんなことができるかわからんのだが、動かしてみていいか?」

「何か混ぜるものはー?」

「そうだな、何でもいいのか?」

「生き物を混ぜるとー、混ざって死ぬのでご注意くだし」

「いや、別に生き物は混ぜないけどよ」

 そうだな

「ちょっと自分の工房行って取ってくるわ」

「はいなー」


 工房に戻ってきたはいいものの、何を混ぜようか。

 性質が混ざるってことは、あたらしい性質を持った素材を作れるってことだよな?

 そういえば、作ろうと思ったけど必要な鉱石が高級品過ぎて諦めたアイテムがあったな。

 その鉱石も大魔導制御式融合炉ってのを使えば作れるんじゃないのか。

 手持ちの素材でうまくその効果を発現させる組み合わせを考えてみるか。


「待たせたな」

「すごい待ちましたよー、帰ろうかなー?って何度か思うくらいですー」

「すまん、色々考えてたからな」

「よいですけどー、決まりましたー?」

「ああ、フリュストとグロンノキスを混ぜる」

 熱を蓄える鉱石と、冷気を放つ鉱石だ、俺の予想というか期待が叶えば、暑い場所では熱を蓄え、寒い場所では熱を放つようになるだろう。

 考え直してみるとそんな組み合わせではなさそうだが、持っている鉱石のなかで望む効果になりそうな組み合わせがこれしかなかったので仕方ない。

「それで、どうやって使うんだ?」

 まずは魔力をこの魔力タンクに注ぎ込んで、起動に必要な魔力を貯めるのですー」

「おう」

 魔力供給用の端子を握り、魔力を送り込んでいく。

 魔力を吸われていく感覚が続く。

 魔力を吸われていく感覚がまだ続く。

 さらに魔力を吸われている感覚が続いていく。

「これ、起動にはどれくらいの魔力がいるんだ?」

 大分吸われたと思うが、タンクのメーターは殆ど動いていない。

「そうですねー、大体8062400テル(テル:共通単位、魔力量を示す)くらいですねー」

「は!?そんなん一年かけても溜まらねーよ!」

「融合魔法は思いの外コストがかかるのですよー、それを再現する機構は様々な魔術式で必要な出力を増幅したりしていて、燃費が悪いのですねー、市販の充填魔力石とか使うとよい感じですよー?」

「8000000テルも買ったらどんだけかかるかわからねーな」

「大気中の魔素を取り込む機構ももちろん搭載しているのですがー、やはり足りないのですよー」

「つーことは、これはでかいだけのポンコツか」

「ポンコツとは失礼なー、動作は完璧ですよー」

「でも、魔力不足で動かねぇんだろ?」

「そうなんですよー、そこは要修正ということでー」

 8000000テル自働回復で溜まる頃には忘れられてそうだなこれ。

 結局混ぜる君とやらもすげぇ技術で作られた役に立たないいつものナットの発明だったってことだな。

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