第53話:ターミ-ノールド〜光の世界から闇の中へ〜

 なんだ夜って、光が少な過ぎて外に出歩けないじゃないか。

 私の種族は闇に対応できない目を持っているため、日の光が地上を照らす昼間か人工の光が辺りを照らしている場所でしか活動できなく、普段は常に明るい夜のない町、ピーテムスタで暮らしている。

 元いた世界が常に明るい世界だったというのが原因なのだろうが、夜のある世界では非常に不便な目だ。

 しかし、仕事で用があって来たロールメスタニアという町は夜には殆どの明かりが落ち、夜はなにも見えなくなってしまう。

 昨日は夜にはホテルに戻れたため、なにも問題はなかったのだが、今日はもうすぐ日の光が衰える時間になってしまった。

 夜になれば道も障害物も反対側から歩いてくる人も見えない中を進んでいかなければならない。

 そうなったら非常にまずい。

 再び死んでしまうことも覚悟しなければなるまい。

 そんなことを考えながら歩いていると既に日の光は衰え初めており、急がなくてはならないことを告げている。

 最初から早足ではあったが、このままでは間に合わない。

 仕方あるまい、走るのには向いていない格好だが、走らなければ闇の中に一人取り残されることになってしまうからな。

 よし、と足にちからを込めて走り出そうとした時、脚に激痛を感じ動かなくなる。

 しまった、走るのなど何十年ぶりかもわからぬのに、もしかしたら生まれ直してから1度も走ったことがないかもしれないレベルなのに、いきなり走り出そうとしたらこうなるのは当たり前か。

 うーむ、この後どうするか。

 脚が動かなければ、急ぐこともできない。

 この田舎町の片隅で静かに二度目の生涯を終えてしまうことになるのか。

 前に死んだときは光に包まれて死ねたと言うのに、今回は闇に飲まれて死んでしまうのか、対比が効いていてある意味良いのかもしれない。

 そんなことを考えていると、携帯端末デバイスに通信が入った。

 他愛もない仕事の進捗を問う連絡だ。

 死んでしまうかもしれないのだし、仕事の引き継ぎだけでも出来るようにしておくべきか。

「俺はもう死ぬかもしれない、後は任せた、この通信の後にデータの場所やパスコードを纏めたメッセージを送る」

『ちょっと、どういう』と相手は慌てた返事を返して来るが、強制的に通信を終了させる。

 さて、引き継ぎに必要な情報を纏めて送らなくてはな、とメッセージ作成メニューを開いた所で今の状況の解決策に思い至った。

 メッセージ作成メニューを閉じ、短い通信先コードを入力し発信、通信に応えた相手と数個の問答をこなす、これで、この状況はなんとかなるだろう。

 もう、目の前は真っ暗になり、脚は動かせない。

 それでも何とかする方法は転がっているものなのだな。

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