第50話:トルメ・チルド〜世間知らずな森の賢者達〜
なんだこの者達は。
狩りのために村の外に出てきていたら、変な集団と遭遇した。
謎の力によりこの世界に生まれ直した後、長き時をこの森で過ごしてきたが、初めて見る装束に身を包み、聞いたこともない言語を操る者達。
装束も見たことがない装飾をされているが、肉体に見られる特徴もバラバラだ、平均して体格は我らよりも少し肉付きがよく、獣のように全身に毛を生やした者や、耳の丸いもの、角を持つものなど、どう見ても種族が異なる者達なのだが、お互いに同じ言語で意思疏通をしている、奇妙な光景だ。
「貴様らは何者だ」
通じないとは思いつつも、問いかける。
彼ら同士は未知の言語で話しているとはいえ、ここまで多種族の集団だ、我らの言葉を解する者がいるかもしれない。
そう思っての問いかけだったのだが、想像以上の効果があった。
「君はノータスフィンのエルフだね、この森に君たちの集落があるのかな?」
一人どころか、全員が彼らは我々の言葉を操り、我々の出自までよく知っているようだった。
この森に生まれ直してから1度も森から出ていなかったから知らなかったのだが、この森の外には無限の大地があり、数多の人が住む街があるらしい。
そして、彼らは不思議な道具の数々を見せてくれた。
風の精霊の力を乗せた弓よりも射程の長い武器、遠く離れた地に一瞬で音や映像を伝える道具、更には設備さえ整えれば物や人まで遠方に飛ばすこともできるそうだ。
我々の村にある知識の樹には元の世界から持ち込まれたあらゆる知識が存在し、我々に知らない事などないと思っていたが、そうではなかったらしい。
その後、その話を村に持ち帰り、正式に彼らを我々の村に招待することになった。
その決定がなされるまで二日ほど、彼らは村の近くで野営をしてもらっており、決定の翌朝多少申し訳ない気持ちで迎えに行ってみたら、立派な小屋が建っていた。
「これかい?これは携帯式の小屋でね、普段はこれくらいの箱なんだ」
出てきた調査隊を名乗る一人、丸耳で短めの角を額から生やす男がなにか暖かそうな黒い液体を飲みながら手で大きさを表す。
「こういった未開地区への調査隊がよく使うんだ、まぁ超凄腕の魔機構技師が複雑な術式を編み込んで作った希少品だから、調査隊の間でも取り合いで、普段は簡易テントを使ってるんだけどね」
はははと笑いながら男は語る。
そして、彼らが我々の村に入った。正直彼らが我々の村を見ても得るものは何もないと思っていたのだが、彼らは我々の住居を見るなり大層驚いた様子を見せた。
こんなもので何を驚いているのかと尋ねると、我々の住居である樹の虚のことだという。
聞くところ、通常この樹にはこのような人が住める程大きい虚は出来ないらしく、人工的に作ったにしては樹には悪い影響を全く与えていないとのこと。
「あなた方の技術力ならばこれくらいは容易いのでは?」と尋ねてみれば、
「いや、僕たちの技術では空間の拡張は出来ても、こういう成育に干渉しつつも、悪影響を与えないということは出来ていないんだ」とのこと。
今まで外を見ていなかったから、何を見せたら喜ばれるかわからなかったが、とりあえず知識の樹に案内してみたら、調査隊の何人かは気絶する程驚いていた。
我々は普通だと思っていたことなのだが、異文化交流とは得てしてこんなものなのかもしれない。
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