2-7
そこでぼくは、またしても読む作業を中断した。中断せざるを得なかったのだ。いつの間にか視界を覆ってしまっていた、涙の膜によって。
重力に負けた涙が一滴、用紙の上にぽとりと落ちた。
ぼくはその涙をなかったことにしようと、まだ紙に染み込んでいない水滴を、指の背でさっと払った。それから上を向き、涙が蒸発するまでの間、いつかルシのしてくれた一本道と、怪物とその尻尾の話とを思い出した。その話に限ってはいまだによく憶えていた。こんな話だった。
「おれたちが本当の意味で通らなければならない真実へと続く道にはな、怪物の尻尾が横たわってるんだ」そのときのルシは言った。「ゴジラくらいに馬鹿でかい怪物の尻尾がな。しかもやっかいなことに、その尻尾はダイヤモンド並みに頑丈で、ちょっとやそっとじゃ切り落とすことなんかできないときてやがる。それでも頑張って頑張ってなんとか切り落としたとしても、またすぐに生えてくるんだ、一瞬のうちにな。だからその道は決して通ることができない。じゃあ一体どうすればいいのか? 答えはたったの一つだ。その道を通行可能にするためには、尻尾を切り落とすんじゃなくて、本体をやっつけなきゃいけないってことだ。いや、ひょっとしたら闘わずに説得できる可能性もあるんだが、とにかくまずは、その本体がいる所まで行かなくちゃいけないんだ。秘密の一本道を通ってな。そしてその一本道への入り口を知っているのが、犯罪の加害者なんだっておれは思ってる。だから他のことと同じ規模で加害者のことを考えて、まずは怪物本体の居場所を突き止めなきゃならない。そうしてみんなで一致団結してその怪物を倒すなり説得するなりの真実へと続く道を切り拓かない限り、問題は何も解決しないってことだ」
どうやら、涙は無事に乾いてくれたようだ。ぼくはマルボロメンソールに火をつけると、再び視線を落として原稿の続きを読み始めた。
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