第123話

 破槌城が帆を一杯に広げ、帰還の途に就いていた。

 背後に京の都が見えている。御所はここからは見えないが、〈御舟〉の上昇という突然の出来事のために壊滅的な被害を受け、大極殿は崩壊していた。

「上様、公卿どもが是非御所の再建をと請願しきりで御座います。上様の念願の征夷大将軍への就任も、近々現実のものとなり、藤原義明殿が新たな〈御門〉の擁立に動き回っているとの報告が来ております」

 天守閣に緒方上総ノ介が彌環びわ湖を無言で眺め、その隣に木本藤四郎が膝をついて、せかせかと報告を続けている。

 上総ノ介は上の空で「ふむふむ」と頷いているだけで、感想を述べない。じっと彌環湖の上空に目をやっている。

 空に烏天狗が翼を広げ、ゆうゆうとした飛行を続けていた。

 翔一だった。

 手に葉団扇を握り締め、顔には喜色を浮かべあちらにひらり、こちらにひらりと飛び回っている。

 破槌城の大手門には、時太郎とお花が立ち、翔一を見上げていた。

 藤四郎の好意で、全員が破槌城に招待されたのだった。藤四郎は上総ノ介を見上げた。機嫌は悪くない。恐る恐る、口を開く。

「上様……こたびの、刑部狸との同盟の件で御座いますが──」

「ん?」と、上総ノ介は藤四郎に目をやった。ちょっと首をかしげ、答える。

「何かあるのか? 刑部狸が同盟に加われば、背後を突かれる心配なく、西国への備えが万全になる! 余の全国制覇には必要なことじゃぞ」

 藤四郎は頷いた。

「判っております。が、狸ですぞ! 狸……あのような魑魅魍魎の者どもと同盟するなど配下の者どもが、動揺しております。本当に宜しいので?」

「くくっ」と上総ノ介は短く笑った。

「まこと、そちは心配性じゃのう。まあよい。そちがそうやって身をすり減らして心配してくれるから、余はのびのびと仕事が進められるというものじゃ! あの翔一という烏天狗が刑部狸の娘婿になっているから、今度の同盟の話が進んだのじゃ。刑部狸は評判の律義者。しっかりと余の背後を固めてくれるであろうよ。そうそう、今回の同盟にあたり、刑部めに苗字をつけることになった。松平とこれからは名乗ることになる。松平刑部、中々よい名前とは思わぬか?」

 藤四郎は、それには答えず、平伏しただけだった。

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