第121話

  四

 宇宙空間に異常が発生していた。

 藍月を動かそうとする〈御舟〉の戦いは漸く勝利をもたら齎そうとしていたが、船内の重力制御装置に掛けられた負荷は、今まさに限界を越えようとしている。

 めきめきめき……と〈御舟〉の船体が歪み始めた。内部からの力が船体を引き裂き、折り曲がった空間の傾斜に沿って畳まれていく。

 強大な重力波を発生させた代償に、〈御舟〉それ自体が重力錨となっていたためだ。

 遂に船内に発生した重力特異点が総てを呑み込み始めた。船体は事象の地平線に落ち込み、直径が原子核より小さな黒穴ブラック・ホールに船体全体が呑み込まれたのである。量子効果により、黒穴は瞬時に〝蒸発〟し、後には僅かの伽馬ガンマー射線と光子フォトンが放たれる。

 後には何も残らなかった。

 ただ、藍月が静かに元の軌道に戻っているだけだった。

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