第110話
四
「あれは何でしょう?」
「〈御門〉だ。どうやら、あれが〈御門〉の正体らしいな」
会話をしているのは、松田玲子大尉と、吉村啓介中佐の二人である。この騒ぎに二人は〈南蛮茶店〉の二階から外へ飛び出し、御所の騒ぎを見に来たのだった。二人とも南蛮人としての変装は忘れている。
「あの黒雲が、ですか? とても人間には見えませんが」
「監察宇宙軍の情報部から、さっき連絡があった。それによると〈御門〉は、殖民船の記憶装置に転写された擬似人格らしい。殖民船から外へ出るため、あのような身体を必要としたのだろう」
「あれが──ですか? いったい、あれは何です?」
「
その時、二輪車の
甚左衛門は大尉と中佐に気付き、二輪車を止めて声を掛ける。
「お二人さん、いったいこんなところで何しているんだ?」
中佐は大声を上げた。
「あんたこそ! 例の南蛮人のことは、どうなった?」
「それどころじゃないっ! あれの……」と甚左衛門は顎で黒雲を指し示す。
「おかげで、てんやわんや、
「どうやら、あれが〈御門〉の正体らしい。御所から這い出してきたのだ」
中佐の言葉を聞いた甚左衛門は、ごくり、と唾を呑みこんだ。一瞬、狡猾そうな表情が浮かぶ。
「そうか……そんなこっちゃないかと思っていたがね……とすると、だ。御所は空っぽってわけか?」
甚左衛門の表情に気付かず、中佐は無意識に返事をしていた。
「ああ……そうだろうな。どうやら〈御門〉は、殖民船の機構を利用していたらしいが……」
中佐の言葉に、甚左衛門は敏感に反応した。
「殖民船?」
「言ってなかったかな。あの〈御舟〉と呼ばれるものが、この星に最初に舞い降りた殖民船なんだよ」
「なんとっ!」
甚左衛門の顔が興奮で真赤に染まる。頬の傷跡だけが、白く浮かび上がった。
「そうかっ! 有り難しっ!」
言い終わるや否や、甚左衛門は二輪車の梶棒をぐいっと回し、その場で旋回して、御所へ突っ込んでいった。
大尉と中佐は呆気に取られ、甚左衛門の背中を見送っていた。
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