第102話

  二

 闇。

 一寸先も見えない闇が取り巻いている。三郎太は河童の習性として、視覚が使えないときには〈水話〉の反射音で周囲を探ろうと口を開いた。

 ──その必要は無い。いま明かりを点ける。

 水虎の〝声〟が響き、水虎の言葉どおり辺りは、さっと光に満たされた。

 柔らかな真珠色の光で、どこから差し込んでくるのか見当もつかない。もしかしたら、空気そのものが発光しているのかもしれない。

 部屋の中だ。しかし柱一本すらも見当たらない。ただ、すべすべした壁が、丸い床をとりまいている。天井は半球形で、家具らしきものは何も見当たらない。

 唐突に上昇していく感覚が湧き起こり、三郎太は身構えた。

 が、すぐ止まった。

 微かな溜息のような音がして、背後の壁が開く気配がする。振り向くと、別の部屋に繋がっている。

 同じような部屋だが、こちらには椅子が一つあった。三郎太は、まるで当然のごとく、椅子に腰かける。背もたれは高く、頭をすっぽりと覆う部分がある。

 座ると同時に、椅子はゆっくりと倒れこみ、三郎太は仰向けに寝そべる格好になる。

 頭を覆う部分が降りてきて、三郎太の顔を覆い隠した。

 奇妙な安らぎの中、三郎太は目を閉じた。

 途端に記憶が蘇り始める。

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