第96話

 異様な衝撃に、時太郎は「はっ」と口を開いた。全身がある力に捉えられ、押さえつけられている。

 苦痛は無かった。ただ全身の細胞の一つ一つが分解され、再構成されるような感覚を味わっている。

 自分は今や、別なものに変えられている!

 奇妙なほど平静な気分である。恐怖も無かった。あるのは純粋な驚愕の感情のみだった。

 全身は指一本たりとも動かせないが、目だけはなんとか動く。時太郎は横目でお花と翔一を見た。

 二人とも同じように金縛りに全身が硬直しているようだ。自分と同じような気分でいるのか、と時太郎は思う。

 その時間は一瞬のようでもあり、また永遠に近い刻限が経過したようでもあった。

 気付いたときには管狐の〝処置〟は終わっていた。

 用心深く時太郎は寝台から起き上がる。腹帯はすでに寝台の中に収容されていた。

「ご気分は?」

 管狐の質問に、お花は首をかしげた。

「いいみたい……なんだか頭がすっきりした感じ……」

 お花は思わず手で口を押さえた。

「あたし、管狐の言葉が判る!」

 翔一が叫んだ。

「わたくしもです! 管狐の言葉を理解できるのは、時太郎さんだけのはず……」

「今や、そうでは御座いません。お花さま、翔一さまも、わたくしめの言葉を聞き取ることができるようになりました」

 ちょこちょこと三人の真ん中に立った管狐は上目遣いになって話しかけてきた。

「時太郎さまの〈聞こえ〉の力、翔一さまの分析力、そして、お花さまの〈水話〉。この三つが合わさって、一つの力となります。今まではばらばらで御座いましたが、最早そうではありません」

 三人は管狐の周りに集まった。おたがいの顔を見つめあう。

 と、三人の床が持ち上がる。この地下にやってきたのと同じような仕掛けがあるらしい。

 天井がぱくりと割れた。空が見える。夜空だが、夜明け前らしく、地平線近くが明るい。

 三人はそのまま外へと持ち上げられていく。

 時太郎は空を見上げた。

 月が双つ、出ている。

 その瞬間、時太郎はこの世界に迫っているという危機を悟っていた。

 お花と翔一もさっとお互いの顔を見合わせる。三人が同時に悟ったのだ。

 現在、三人は一つの意識に結ばれていた。

 時太郎が〝声〟を聞き、翔一が分析する。そしてお花が〝声〟を発するのだ。今や、三人で統合三位一体意識トリニティ・ゲシュタルトに変貌していた。

 管狐が叫んだ。

「お気をつけ下さい! 敵で御座います」

 検非違使が周りを取り囲んでいた。

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