第84話
南蛮人
一
京には東西南北、四方に門があり、北から玄武門、東の青竜門、南の朱雀門、および西の白虎門となる。その西にある白虎門の近くに、知る人ぞ知る通称「南蛮茶店」と呼ばれる店があった。大通りからは引っ込んでいる場所にあるので、よほどこの辺りに詳しくないと辿り着けない。
建物は二階建てで、一階が茶店になっている。内部は「南蛮茶店」と言われるだけあって、卓と椅子の南蛮方式の茶店で、給仕の娘は南蛮風の
店構えが南蛮風ということもあったが、この店が「南蛮茶店」と呼ばれるのは、この店の二階を訪ねて、しげしげと南蛮人が姿を現すからだった。二階は南蛮人たちにとって特別な場所らしく、南蛮人以外は立ち入りを禁じられている。
ある時、好奇心の強い調子者が、店の者の反対を押し切り、無理やり二階に上がろうとしたことがあった。が、階段を上がるとなんと、その階段が勝手に下がり始め、いくら早足で駆け上ろうとしても元に戻されてしまった。
その調子者は、それでも手すりにしがみついて、なんとか階上へ登りついたが、その時何かが起きて、階段を転げ落ちてしまった。何があったか、当の本人に聞いても埒があかず、以来ずっと、誰も二階へと上がろうとはしなくなった。
店へその南蛮人が姿を表したのは、開店して程なくの、まだ朝の早い時間であった。店には朝早くの客に供される
からん、と店の扉に取り付けられた土鈴が鳴って来客を報せる。その音に、白い
が、姿を表した客に、娘は思わず立ち止まり頬を赤くした。
南蛮人である。しかも女だ。
意外な来客を見て、店のざわめきがぴたりと止まった。客たちは好奇の視線を南蛮人の女に送っている。
背が高く、五尺五寸はありそうだ。細面で、流れるような金髪が背中にかぶさり、抜けるような白い肌に、青い目をしていた。
女は給仕の娘に短く声を掛けた。
「二階へ向かいます。よろしいですね?」
切り口上のような口調に、給仕の娘は慌てて頷いた。南蛮人の女は返事を待たず、さっさと階段を登っていく。
かつ、かつと女の革靴の底が鋭い
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