第70話

  四

 闇の中、時太郎は〝声〟に耳を傾けていた。

 その〝声〟は奇妙だった。

 確かに聞こえているのに、聞こえていない。耳を澄ますと、ふっと遠ざかり、意識を逸らすと、また聞こえてくる。

 それは、苛立たしいほど捉えどころがなかった。何かを単調に呟き、延々と報告を続けているようである。

 いったい何を呟いているのだろう?

 どうやら〝声〟は、一つではなさそうである。幾つかの〝声〟が交錯し、それらが一つの〝声〟に収斂していく。

 じっと聞いているうちに時太郎は、それらの〝声〟の内容が判ったと思った。

 いや、その時は確かに、そう思えたのだ。

 驚愕が時太郎を揺り動かす。

 しかし、その感情は一瞬にして失望に変わった。もう、どこからも、その〝声〟は聞こえない。

 時太郎は再び闇にとり残されていた。

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