第54話
六
時太郎とお花の後から、烏天狗の翔一は苦楽魔を振り返り振り返り、息をぜえぜえはあはあ切らせながら従いてくる。足下は
なんでも一本歯の下駄は、
空はとっぷりと夕暮れで、苦楽魔の辺りからは仄かに火明かりが点々と灯っているのが見えるだけになっていた。
必死に従いてくる翔一の足取りは、時太郎が見ても危なっかしい。履いているのが草鞋にも関わらず、しょっちゅう
「ねえ、やっぱり、あいつ一緒に連れてきて、大丈夫?」
お花が時太郎に囁いた。時太郎は小さく舌打ちした。
「しかたないよ、もう決まったことだ!」
「でも、あんな調子で、少しは役に立つのかな?」
歩みは翔一の鈍足のせいで、かなり遅れていた。
聞こえないよう小声で話していたのだが、翔一は察していたのだろう。泣き出しそうな顔になって、ぺこりと頭を下げた。
「あいすいませぬ! このような半人前のわたくしを旅の道連れとして加えて頂きましたが、これではお二人の足手まといになるばかり……やはり苦楽魔に戻り、別の天狗を呼んできたほうがよさそうに思います」
時太郎は手を振り「よせよ!」と叱った。まったく面倒な奴である。
その内、翔一は見るからに疲れきり、足が
といっても、そこらの平坦な場所の木陰に、ごろ寝するだけのことだ。二人の横に翔一は、筋肉痛が酷いのか、呻き声を上げながら寝ころんだ。
空を見上げると、星空が見えてくる。
その星空を見上げた時太郎は、ふと苦楽魔の天儀台と呼ばれた部屋で見た星空を思い出した。
「あの天儀台って部屋の星空は、この星空と同じなのかな?」
「ああ、あの星空はこの惑星から見た星空ではないのです。地球と申す、この惑星から遙か
翔一の予想外の答に、時太郎は「えーっ?」と顔を上げた。
「そりゃ、どういう意味?」
「わたくしにも良く判りません。ですが、この世界は惑星と申す球体のような世界で、昼間に見るお日様の周りを回っているそうなのです。お日様の周りを一年かけて回り、それが一年の暦となっているのです。天狗はその暦を作成するのが仕事なのです」
「それで、地球ってのは、なんだい?」
「地球とは、光の速さでも何十年も、いや、何百年何千年も掛かるほどの遠くにある世界で、そこからこの惑星に人々が天翔る
星空を見上げる翔一の口調が楽しげなものに変わった。
「時太郎さん、お花さん。わたくしは、京の都に行くのが楽しみなのですよ。なんでも聞くところによれば、京の
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