第72話 終幕

「というわけで、イオムと対談してきました」

「「「どういうわけだぁぁぁっ!」」」



 わお、いきなりカヤちゃん、ポチ、ビーからお叱りを受けましたよ。

 こちとら黒幕とドキドキしながら話してきたというのに、少しは労ってほしいものだ。



「もうボータさん! 心配したんですからね!」

「そうだよぉ、行くならボクも連れていってほしかったんだからね!」

「せやせや、ウチかてイオムって奴の顔面に拳を叩き込んでおきたかったし」



 ごめんなさい、カヤちゃん。ポチ、お前はただ暇だっただけだろう。そしてビー、そんなことをすれば後始末が凄く面倒になるから。多分死ぬし。



「ふふふ、さすがはボータ殿ですな。よもやイオムと一人で会っていたとは。実のある話ができましたかな?」



 正座をさせられている俺を楽しげに見つめるヴェッカだけども、俺としては三人を宥めて助けてほしい。



「やっぱアイツはおかしい奴だったよ」

「ほほう、それはボータ殿よりも、ですかな?」

「……あ、あのぉ、もしかしなくてもヴェッカも怒ってる?」

「いえいえ、皆に黙って勝手な行動をして心配をかけたボータ殿を怒る理由がどこにありますか?」

「絶対怒ってるよね! だからごめんなさい、許してぇ!」



 だって瞳が全然笑っていないというか、怒気が溢れているのだから。



「お、おいおいそこまでにしてやってくれないかお前たち」



 そこへ天の助けとばかりにグレイクが声をかけてきた。そのまま彼が俺の傍に妻らしき女性とともにやってきて頭を下げる。



「今回、手を貸してくれて本当に助かった。ありがとう」

「主人を助けてくださり、感謝致します」

「いやいや、無事ならそれでいいっすよ。ただ俺は、カヤちゃんとビーに助けてやってほしいって頼まれたから行動を起こしただけ。礼を言うなら二人にしてほしい」

「ああ、ビコウたちにはちゃんと礼は言った。けどどう考えても今回の立役者はお前さんだ。改めて名前を聞いてもいいか?」

「望太っすよ。性は白桐、名を望太」

「俺はグレイク・ドライセンだ。ボータ殿、本当にありがとう」

「殿なんていらないいらない。身分的にはそっちの方が上なんすから」

「なら俺のことも気軽に呼んでくれ。身分なんて関係なく、恩人にはそう呼んでほしい」

「う~ん……じゃあグレイク、でいい?」

「ああ、十分だ」



 そのあとに彼の妻である女性の紹介も受けて、再度感謝の言葉をもらった。

 そしてイオムと何を話してきたのか問い詰められたので、皆にも説明することに。



「――なら王の洗脳はイオムがいなくなれば解けるんだな?」

「そうだよグレイク。でも解けたからってグレイクへの信頼が復活するわけじゃねぇ。これから王を支え信用を勝ち取っていくのは、アンタ次第だぞ」

「そうか。しかし王が我々に対して重圧を感じてたとはな……。傍にいたというのに気付かなかった」

「それもあくまで俺の推察だけどな。でもま、イオムも俺の推察を認めてたし可能性は高いけど」

「いや、よくよく考えてみれば俺や去って行った仲間たちは、ガンプ王に多くを求めていたのかもしれない。先代と同じ血を引く彼ならば、先代以上のものを期待できる、とな。だからこそ彼が失敗をすれば、それが必要以上の落胆を生んでしまった。俺だってそうだ。もしかしたらガンプ王自身を見ず、先代の息子としてしか見ていなかったのかもしれない」



 それを感じ取ったガンプ王は期待に押し潰されてしまい、逆に自分を追い詰めた者たちを信用せずに、守り肯定してくれる余所の者のイオムの言葉を真に受けてしまったのだろう。



「アンタはガンプ王ともっと話すべきだと思うな。膝を突き合わせて、酒でも飲み交わしながら話してみたらどうだ? まずはそうやって仲を深めていけばいいと思う」

「ボータ……そうだな。ああ、そうすることにする。しかしまあ、今後はかなり忙しくなりそうだが」

「そうですな。ボータ殿がイオムを追い出すために取った策のせいで、中央から使者がやってくるのは必然。公開処刑の報告を偽った責は負わねばなりますまい」

「あ、あのヴェッカ、その言い方だと俺が物凄く悪い奴に見えるんだけど。まだ怒ってんだろ、絶対」

「ふふ、乙女たちを心配させた罰だと思い甘んじて受けるべきですな」



 はぁ、これだから女は怖い。でも勝手な行動をしたのは事実だから反論もできない。



「せやけどボーやん、洗脳が解けても王がイオムを探し求めるっちゅうことも考えられるんやない?」



 ビーの言う通り、洗脳といっても王がイオムに依存していたのは事実だ。恩人であるイオムに感謝を覚えているのも確かだろう。だから――。



「それについてはコレを王に聞かせればいいさ」



 ポケットから取り出したのは細長い機械。



「それ何なん、ボーやん。何や初めて見るんやけど」

「これは《ボイスレコーダー》って言って、声を録音できる優れもの」



 俺はカチッと再生のスイッチを押す。するとレコーダーから俺とイオムの声が聞こえてくる。



「こ、声が聞こえてきよる!?」

「す、凄いです!」

「わぁ、おもしろ~い!」



 ビー、カヤちゃん、ポチがそれぞれ感動して瞳を輝かせている。

 この世界に地球の文明の利器である《ボイスレコーダー》が何故存在するのか。



 理由はいたって簡単。〝外道札〟によって創り出しただけだから。



「声を録音し再生する《霊具》まで持ち合わせていたとは。さすがはボータ殿ですな」



 ヴェッカたちは当然、これが《霊具》だと思い込んでいる。俺としてもそっちの方がやりやすい。

 ただカヤちゃんだけは「ボータさん、そんなもの持ってましたっけ~?」と可愛らしく首を傾げてはいるが。



「グレイク、これの使い方を教えるから、王に聞かせてやればいい。今頃イオムは国を出奔してるだろうから、この会話の信憑性も高まるしな」

「ありがてえ! 何から何まで感謝するぜボータ!」



 俺はふぅぅ~と大きく肺から空気を吐き出す。



 これでようやく俺の役目は終わった。久々に思考をフル回転させたし、人前で成れないパフォーマンスまでしたことで大分疲れたのだ。

 今日は熱い風呂にでも浸かってゆったりとしたい。



 こうして【リンドン王国】の事件は、静かに幕を下ろしたのだった。



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