第18話 散歩
「ボータさんはここにいればいいんですぅ! そしてここで死んで、幽霊になってもずっとわたしと幽霊コンビとして漂うんですよ!」
「やだよ! 何勝手に死んだ先の就職先を決めちゃってんの!?」
できれば成仏したいし。彷徨いたくないし。
「「うぅ……」」
二人が訴えかけるような目を向けてくる。
ああもう、こんな可愛い子たちをあしらうのは京夜の役目なのにぃ~!
アイツならいつも傍に女子がいたのできっと慣れているはずだから。
「と、とにかくほら、散歩の続きをするぞ!」
「あ、そうだ! 散歩だ散歩~!」
「わたしもご一緒しますね~!」
あれ? 本当に悲しんでたの? コロッと表情が変わってますが……?
二人の変わり身振りに釈然としないものを抱えつつも、俺は三人で散歩の続きを堪能した。
――二時間後。
「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……っ」
すでに俺の足はチワワのように小刻みに震えている。脱水症状でも起こしそうなほどの見た目で、岩に寄りかかっていないと今にも倒れそうだ。
「あ、あのなぁ……いつも言うが……ちょっとは手加減しやがれぇ……っ」
山道を二時間も歩きっ放しだとこうなるのは当然だ。ほとんど休みもないので、家に帰って来くると決まって満身創痍なのである。
対してポチは、さすが犬なのか息すら乱していない。一緒に散歩をしたカヤちゃんは、常にフワフワと空に飛んでいるので問題外。つうか羨ましい。
「あ~楽しかったぁ! 夕方にも行こうね~!」
「嫌じゃ! 何で毎回毎回疲労困憊になるまで散歩に付き合わねばならんのだぁ!」
「え~だってぇ……楽しいから?」
くっ……憎らしい。けど可愛らしい。これが妹バカと呼ばれる兄の気持ちなのだろうか。
嫌だ嫌だといっても、妹が喜ぶならと我慢して何でもしてやる。俺はポチにそういう気持ちを持っているのかもしれない。
実際コイツが喜んでくれたらいいやって思っちゃってるしなぁ。
「はい、お水ですよ」
「あんがとな、カヤちゃん」
彼女が井戸から汲んだ冷たい水をコップに入れて差し出してくれる。
「んぐんぐんぐんぐ……っぷはぁ~! 美味い!」
この一杯のために生きてるって感じだな。魂が生き返るようだ。
「――ほう、皆で散歩に行っていたのかのう」
そこへ桃爺が家から出てきた。俺に視線を向けて、
「何じゃ情けない。たかが散歩でだらしがないと思わんか?」
「ぐ……うっさいわい」
だったら山道を二時間回ってみろ。たまにダッシュもするんだぞ。厳しい部活の練習かこれは!
と怒鳴ってやりたいが、桃爺なら鼻歌混じりにこなすだろうから止めておく。
何せこのジジイ、ポチ曰く考えられないほど強いらしいしな。
全力のポチが戦っても片手であしらわれるって言うんだから恐ろしや恐ろしや。
さすがは桃た……いや、それは口にしないでおこう。何か認めるのは癪だし。
「でも最初は二時間も散歩できなかったのに、ボータさん凄いですよ!」
「そだね~。ちょっと前までは、ボータってばすぐに倒れるし物足りなかったも~ん」
も~んじゃねぇ! ぶっ倒れるまでする散歩がどこにあんだよ! 毎日毎日ふざけやがってぇ!
まあその代わりといっちゃ何だが、体力だけは妙についたけど。この三週間もムダじゃなかった。
今ではステータスも、耐久ランクがD→Cにアップしている。鍛えればちゃんと反映してくれるのは嬉しい。こうして結果として確認できるのは便利だ。
ただもちろん放っておけば、ステータスは下がっていくようだ。特に筋力や耐久は。
何故か幸運がCからDに下がっているのはビックリしたが。幸運については生まれつきもそうだが、日によって変動するとのことなので、なるほどと納得しておいた。
カヤちゃんに家の中にある薪風呂を沸かしてもらい、朝食前に汗を流すことに。
風呂には桃爺がこだわっているらしく、古風な薪風呂ではあるが、結構広くて数人が一緒に入ってもゆったりできるくらいだ。
「ふひぃ~、生き返るわぁ~」
「えへへ~そうだよねぇ~」
「…………何で勝手に入ってきてるのかな、ポチくん?」
「いいでしょー」
気づけば俺と同じく湯に浸かって蕩けた表情を見せているポチ。しかも幼女型になって、何故か俺の膝の上に座っているという始末。
いや別にロリコンじゃねぇから、どうということはない。……本当だよ?
それにこうやってポチと一緒に風呂に入るのは初めてではない。だから慣れたものだ。
「ねえねえボータァ、どっちが長く息を止められるか勝負しようよー!」
「は? やだよめんどくせぇ。つうか疲れてんのにもっと疲れるだろうが」
「えーいいじゃーん! しようよー! ねえねえ、ねえってばぁ~!」
「だあ、うっさぁい! 分かったよ、一回だけだかんな!」
「やったぁ~!」
しかし結局十回以上付き合わされることになり、とても癒しの空間だとは思えないほど疲労がたまったのだった。
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