35話 偽物の海岸

 大量のソーマは大地の大半を沈めた。

 それは海になり、世界を覆った。

 海の正体。真実は二人しか知らない。


「すごいね!」


 機械仕掛けの竜を海と陸の境目に降ろし、鞍から海へと飛び込んだフロイはいつもの屈託のない笑みを浮かべてはしゃいでいた。

 水を掴み、空へと投げる。陽光がキラキラと雫を反射し、再び海に戻る。

 遠くに見える月の残骸、あまりに巨大な歯車と共に視界に収めたパルチェは複雑な気持ちのままだった。


(正しいの?)


 それは終わらない問いだった。

 正しかった。間違っていた。一体、それを何で測れば知れるのだろうか。

 パルチェは竜から降りた。

 フロイの隣に立つ。

 すると、水と戯れるのをやめたフロイが突然パルチェに抱き着いた。

 予想外の行動にパルチェは勢いそのままに波打ち際に倒れこんだ。


「えへへ、ずっと一緒にいられるね」


 フロイはパルチェの隣に寝ころび、手をつなぐ。フロイが空を見上げて、パルチェもそれを真似た。


「だって、は、つきはもうないんだから」


 波が押し寄せて返す。

 それはまるで歯車のように規則的な動きだった。

 偽物アトモスフィアの海岸で、二人の少女はあまりにも遠くて、あまりにも近かった。

 

                <完>



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アトモスフィアの海岸 夏鎖 @natusa_meu

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