第5話 やばい。大好き。

家に帰って少しだけ課題をした。

今日のことを意識して、普段は少しえっちなコーナーしか読まないファッション雑誌とかも読んでみた。

なるほど世の中のイケメンカノジョ持ちとかはアニメのTシャツとか全身黒の服に身を包まないんだな。

田中が選んでくれた服は正義だった。

学校が始まったらなんかおごってやろう。


母さんが帰宅して、夕飯も風呂も済ませた。

父さんは、俺が風呂からあがるころに帰宅したので軽く挨拶をする。


あの百合の花事件から若干生暖かい目で見守られてる気がする。

ごめんな父さん…俺、あの百合の花は妖精さんを呼び出すために使ったんであって女の子に花をあげるなんて真似できないわ…。


妖精さんを呼び出そうとする高校二年生ってほうが、百合の花をあげる男よりキモイことに気が付いたけどめげてはいけない。


昨日と同じ時間、夜風にあたりながらといわれたので窓を開けた。


これ、なんか声をかけたほうがいいのかな。

無言で待ったほうがいい?


妙なテンションのせいか、やけに近所の家の音が大きく聞こえる。

夏とはいえ、ガタガタどんどんこんなにうるさかったっけ?

そんなことを考えて5分ほど待ったけど、なにも音沙汰がないので何か声をかけようとしたその時、昨日と同じ小さな声が夜風に乗って聞こえてきた。


妖精さんが言うには、明日もまた図書館に行ってみて世間話をしろとのこと。

「いきなり世間話とかハードル高くない?」ってついつい返したら世間話につきあってくれた。

いいやつだな。

趣味の話とか、学校の給食の話とかそういう話をして共通点を見つければいいんだって。


なるほど。割と普通でいいんだな。女の子だからこうとかではないっぽい。

そりゃ下ネタはダメとかあるだろうけど。


初日のことがあったので、妖精さんのアドバイスは全面的に信用している。

翌日も、俺は図書館へ行った。

今日はなんか重ね着?っぽくなってるポロシャツ。おしゃれ。

これも先月、田中に勧められたやつ。

「お前彼女欲しいんだろ? 買え買え」って言われたときはムカついたけど、今は妖精さんの次に田中に感謝してる。


昨日と同じ時間、同じ場所に彼女はいた。

相変わらずポニーテールとメガネが似合ってる。

昨日はなんか水色のふわふわした服だったけど、今日は薄い黄色の肩の部分がふわふわした服を着てる。かわいい。

女の子の服ってよくわからないんだけど、とにかくかわいい。


昨日と同じように本を選んでから机に向かう。

今日は昨日みたいな電波な本を選ばないようにまじめにタイトルを見て選んだ。


俺が席に座ろうとすると女の子のほうから声をかけてきた。


「こんにちは。今日もお勉強ですか?」


これが妖精パワー? すごいぜ妖精。

普段の俺なら、適当に笑ってうなずいて話とか弾まないんだけど今日は違った。

昨日、妖精さんに言われたという力強い後押しがある。

練習したとおりに世間話を振ってみた。


すごい。

俺の話して女の子がうなずいたり笑ったりしてる。すごい。

これはまじで彼女になっちゃうんじゃないの?ってはしゃぎそうになって告白なんてしそうになる。

告白してもよかったかもしれない。

でも、俺はヘタレで非モテなのでそんな勇気がなくて、それよりも世間話でいっぱいいっぱいというか、話をして笑ってる彼女をみただけで満足だった。


「私、美穂っていいます。また明後日ここに来るので、よければまたお話ししてくださいね」


あっという間に時間が過ぎた。

美穂さんは予定があるからと先に席を立った。


やばい。大好き。

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