第4話 穿きなれないおしゃれパンツ
ピピピピとうるさい目覚ましの音で目が覚める。
夏休みに早起きなんてナンセンス。
そう思ってた昨日までは。
でも! 今日は!
俺の将来の彼女候補に会うかもしれない日。
これは気合を入れないといけない。
図書館までは自転車で10分。
いくらメルヘンな妖精さんのアドバイスとはいえ、図書館に来た見ず知らずの人が、自分に挨拶だけして速攻去っていくとかこわくない?ってことに気が付いた。
これだからメルヘンランドの住人のアドバイスはいけない。いや、ありがたいんだけどね。
成功率を高めるためにも、さりげなーく本とか借りたほうがいいよな。
どうしようかなーその前に寝癖を直して…。
父さんも母さんも、もう仕事に出かけている。
夏なのに働かないといけない大人は大変だ。
あまりにもテンションがあがりすぎて、思考があちこち散らかってしまう。
遠足当日の朝みたいにワクワクして、居ても立っても居られない。そんな感じだった。
洋服を、漫画とかで見る女子みたいにファッションショーしてあれでもないこれでもないとしているうちにあっという間に出発時間になってしまった。
妖精のやつ、ファッションアドバイスもしてくれればいいのに。
無理か。
清潔感が第一! って田中がいってたな…と思い出して白い半袖のカットソーの上に黒い七分袖のシャツを羽織る。
お気に入りの破けてかっこいいジーンズは我慢して、この前田中と買い物に行ったときにおすすめされたブラウンのクロップドパンツってやつを穿くことにした。
美脚効果!って書いてあった。これはかっこいいはず。
穿きなれないおしゃれパンツは膝下くらいの丈で、なんだかすねのあたりがすーすーした。
意気込んで自転車を飛ばすと、あっという間に図書館へ着く。
夏休みだというのに、図書館は空いていた。
まぁ夏休みって言っても朝だもんな…。
本を探すふりをして妖精さんから言われたDの棚を目指す。
おっ? あれかな? あの女の子かな?
人が少ないから間違いようがないはず。
横目で見ながら、どんな女の子なのか確認する。
神様…!
俺は、彼女の外見を確認した瞬間テンションがあがりすぎて、妖精どころか神様に感謝してしまった。
Dの棚前の机に座ってるのは、黒い髪のポニーテールが似合う、少し地味だけれども磨けば光りそうなメガネの女の子。
そして胸のほうも着衣の上からでも主張する感じのなんていうか、おおきい。
なんてこったい。
てっきりこう美術の絵みたいな、かなり豊満な感じの女の子とか、控えめに言っても異界の生物かなみたいなのを想像してたよ。
本当にかわいい女の子がいるなんて…。
神様…じゃなかった。妖精さんありがとう。
ドキドキしているけど、あまり凝視してもやばいと思ったので本を探すふりをする。
とにかく、なんでもいいから本を取ってあの女の子の斜め前くらいにさりげなく座ろう…。
タイトルも見ないで適当に本を取ると、俺は女の子のいる机に向かった。
「こんにちは、ここ、いいですか?」
生まれてきてから今まで出した声の中で、一番イケボなんじゃないかって意識して女の子に声をかける。
「あ、こんにちは。どうぞー」
女の子は俺の顔を見て一瞬ハッとした顔をした…気がした。
すぐに顔を伏せられてしまったので気のせいかもしれない。
とにかく、挨拶は成功だ。
これでこの子が彼女になるはず。
くーーーーー! 夜に妖精さんからの次のアドバイスを聞くのが待ち遠しいぜ。
にやにやが止まらない。
せっかくの未来の彼女候補に不審者扱いされるのも嫌なので、適当にとってきた本に目を落とすふりをして、にやにやを抑えよう。
俺の目に飛び込んできたのは【世界を侵略する爬虫類人間とその陰謀を暴く】なんてアレな本だった。
アレな本もそこそこ面白く読み進めたところで、本のタイトルを見られないようにしつつ席を立つ。
さよならの挨拶とかしたほうがよかったかななんて思ったけど、さすがに初対面のやばい本を読む人間からそんなにアタックされたらキモイかなと思ってやめた。
あとは夜を待つだけだーーー。
家に帰って将来の彼女とどんなことをするかとか、ファミレスでパフェとかあーーーんってしてもらいたいとか考えているうちに寝ていたのか、気が付いたら夕暮れだった。
一日を無駄にした気分だ。
いや、午前中に良いことがありすぎたしな。これくらいでいいのか。
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