第2話 オレ カノジョ ホシイ
「ほら早く夕飯食べちゃいなさい」
母親の声で目が覚める。
帰宅してすぐ寝てたらしい。
そうだ! 百合の花!
あんなに苦労して採ってきたんだ。ダメもとで例の呪術をしようと思ってたのに
肝心の材料がなくなってたらどうしようもない。
焦って部屋を見回す。
ごちゃごちゃに散らかったいつも通りの部屋に見慣れないものが一つ。
窓辺にある机の上にあったのは青い半透明の花瓶に入れられた百合の花だった。
母さんが入れてくれたのかな。
ほっとするとおなかがすいてきた。
どうやってばれないように例の魔術をするか考えながら夕飯でも食べるか。
体と頭をシャキッとさせたくて、思い切り伸びをしながらリビングへ向かった。
今日は珍しく父さんもいてにぎやかな食卓だった。
隣のおじいさんのところは息子さん夫婦が帰省してきているとか、向かいの奥さんは旦那さんと喧嘩をして
実家に帰っているとか、近くにショッピングモールが出来るらしいとかとりとめのない話がつづく。
「そういえば、あの百合どうしたの?」
唐突の母からの質問に思わず固まる。
高校生にもなった息子が突然花を摘んできたなんて確かに気になる話題だよね。わかる。
さすがに「彼女を作るために妖精を呼び出したいんだ」なんでいうわけにもいかないよなー。
それを言ったら心配をされるどころじゃすまない。
「そりゃお前、気になる女の子にでもあげるんだろ」
「いや、そんなんじゃないから…。とりあえずごちそうさま。課題があるから」
父さんの謎の青春推し。
気になる女の子に百合の花をあげるとかキザすぎるというか一周回ってキモイでしょ。
俺みたいな平凡根暗フェイスがそんなことしたらSNSでさらされるよ。
そんなことを言えるわけもなく、無理やり話を切り上げてコップを片手に自室に避難した。
母さんは「まだ夜は涼しいからクーラーはつけないでね」なんてのんきな声をかけてきたのでうまく話はそらせたらしい。
俺はドアを閉めると窓の前にある勉強机に座った。
夜風がそよそよと流れ込んでくる。
窓を開けている家が多いのか、マンション内の雑音が心地よい程度に流れ込んでくる。
毎年夏は好きではないけど、このうるさくもなく静かすぎないほかの家族が団らんしているであろう物音を聞くのは好きだった。
さて、昨日インターネットで調べたことをメモしたこの俺流魔術の書によると妖精の召喚に必要なものは…ミルク、ワイン、そして一輪だけ伸びている百合の花。
百合の花…周りになかったよな確か。覚えてないや。
とりあえず、一番入手難易度が高い百合はゲットした。
ワインは、母さんたちがいない間にこっそり料理用のものを拝借しておいたし、ミルクも、さっきさりげなく持ってきた。
なんか昨日の夜中ハイテンション過ぎて覚えてないんだけど、なんてワードでこの方法がヒットしたのかわからないんだよな。
それっぽいワードを検索しても全然ヒットしない。
まぁ、そういうことも含めて紙媒体にメモを残した俺様さすが!!これは彼女なんてすぐ出来ますわー。
高校二年生にもなって「魔法」だの「妖精」だの少し気恥ずかしいので無理やりテンションをあげる。
だんだん「ないわー」って思ってしまう気持ちに負けてはいけない。
そうだ俺は彼女を作るんだ。
両手でピシャント自分の頬を叩いて気合を入れると俺は妖精を呼び出す準備を始めた。
まず、この山で採れたての新鮮な百合の花を中心に半径60cmほどの円を描く。
半径60㎝…デカいな。
ここら辺の洋服をベッドに乗せて…えっちょ…足りない。
半径6㎝でいいかな。うん。
俺流にアレンジしちゃおう。ダメだったらまた試せばいいし。
机の中心に百合の花を置き、花瓶の周りに半径6㎝の円をマジックで描いた。
それで…ミルクを円に沿って注ぐと…。
注ぐ?え…これ溝的なものが必要?室内だと無理?
いきあたりばったりでやりすぎた。
でもここまで来たら後には引けない。
指にミルクをつけマジックの上からなぞっていく。
あとは月が出ている時間に百合の花びらにそっとふれるのを7日間繰り返す。
難易度高いな。
でも一週間待てば彼女が出来るもんなー。これくらい手がかかったほうが彼女が出来たときありがたみもあるってことでしょ。
一週間百合の花びらにそっと触れることを続けたら、8日目にワインを円の中にたらし、花にキスをして立ち去る。
そうすると、後方から百合の精が声をかけてくる。らしい。
本当かなーーーーーー。無理でしょ。どう考えても現代社会の日本でそんなメルヘンなこと起きないでしょ…。
でも、あれだけ苦労したからな…ダメもとで試そう。
オレ カノジョ ホシイ
どうか彼女を作るための知恵を俺に下さいもしくは彼女を魔法とかでびゅびゅーんと出してください!!!!!
そう願いを込めて百合の花びらにそっと触れた。
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