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「やっぱり無人か…」
アイリィは
予想していたこととはいえ、無人の艦橋をまのあたりにして、アイリィは途方に暮れたい思いであった。軍有数の技量を有する槍術の名手としては、正直なところ、艦を占拠する宇宙海賊の親玉とその手下が
むろん途方に暮れてしおらしく助けをもとめたところで、
「ここは…どこだ?」
シュティ・ルナス・ダンデライオンは、艦橋入口の扉にロックがかけられていたときのために用意していた超小型爆弾の安全装置をセットし直し終えたところだったが、親友のめずらしくうろたえたつぶやきの音波を耳にとらえて、自身以外に艦橋にいるただひとりの人物のもとへ歩みよっていった。
ふたりがいるのはいうまでもなくサルディヴァール号の艦橋であったが、アイリィが問題にしているのは、艦内部の場所ではなく、艦自体の位置であった。シュティは親友の背後から艦外遠方の状況を表示する電子望遠システムのディスプレイをのぞきこんだ。
「白色
アルバユリア星域に存在する三つの恒星、アルバ・シビウ・フネドアラはすべて黄色矮星もしくは
「参ったね、これは」
アイリィはあまりの状況の困難さに、なかば呆れかえった。アルバユリア星域には、観測されているかぎり白色矮星は存在しない。とすればふたりが眠っているあいだにサルディヴァール号はアルバユリア星域から出てしまったことになるが、他の宙域まで可能性をひろげると、白色矮星自体が全宇宙からみればありふれた存在であるために現在地の特定が非常に難しいのだ。
さらに、艦の現在地を示す星図コンピューターのディスプレイには、サルディヴァール号をあらわす赤い点が真っ黒な画面にぽつんと浮かんでいるのみである。これが完璧な事実を示しているとすれば、サルディヴァール号は端末に
ふたりは数瞬の沈黙を共有したが、ふだん自分の専門分野以外では高度な頭脳活動をあまりみせない赤黒髪の生物科学少佐が、単純だが重要なことに気がついた。
「そういえば、この
シュティは冷静に聞いたつもりだったが、その声から完全に不安の粒子をとりのぞくことはできていなかった。
「たしかに、そういえば…」
サルディヴァール号は、ふたりの例外をのぞいて無人となったとなったいまも、無限の虚空を孤独に航海している。軍艦に限らず宇宙艦艇の
アイリィは嫌な予感と
「一〇時間後ぐらいに、あの恒星に突っ込むことになっているねぇ」
「…ええっ!?」
動揺の波紋を最小限におさえるために親友がわざとのんびりとした口調でいったのでシュティの反応はややおくれたが、数瞬の間をおいてすぐに事実を理解した。宇宙艦艇が恒星に突入したときにどうなるかということを検証した資料はないが、高温で燃え尽きるか、それよりさきに強大な重力によって粉砕されるか、いずれにせよどれほど
「どうするの…?」
親友の問いかけを背に、アイリィはなんとか航路統御システムへアクセスしようとこころみたが、非情な機械はその努力を認めてはくれなかった。救難信号を発信するためのボタンも、何の反応も示さない。
「重要なシステムには、全部ロックが掛けられてるみたいだ」
と、アイリィは親友に首をふってみせた。ロック自体は単純なもので、個人識別装置を兼ねる階級証をかざしたうえであらかじめ決めておいた一〇桁のアルファベットと数字の組合せを入力すればよいのだが、その
アイリィはさらに数分間、頑なに干渉をこばむ電子機器と格闘をつづけたが、時間の浪費であることをさとらされるのみであった。
「仕方ないね。脱出しよう」
決断力も非凡なものを有する槍術の名手はそう判断を下した。
「大丈夫かな…」
とこちらは親友に比してやや決断力に欠ける生物科学少佐は応えたが、彼女は基本的に、というよりつねに才ある親友の思考には全幅の信頼をおいている。今回も心底から疑問を呈したというより、確認の意味合いが強かった。このようなとき親友は、思考の根拠を整然と
「もうちょっとここで頑張ってみたいところだけど、時間がないからね」
現在、サルディヴァール号は名称不詳の白色矮星に向かって、最期の旅路をまっすぐに
「まあ、なるべくベストを尽くしてみるよ」
簡潔に説明をした上で、アイリィはおだやかな口調でそういったが、彼女自身にも十全の自信があるわけではない。本来であればもうすこし思考に費やすことのできる時間がほしいところである。しかし事態の砂時計はすでにひっくりかえされてしまっており、限られた砂量を最大限効率化して使用する必要が、このときはあった。
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