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 歩き始めて早々、

「ねーねー、携帯番号ぉ、交換しようよぉ」

「あ、そうそう、間に合わないかと思って電話かけようとしたら、よく考えたら番号聞いてなかったですぅ」

 さも当然のごとく、遅れたことを正当化しようとする沼田さん。 

「携帯電話なんか持ってない」

「俺も」

 アパートの電話だって

「電話、共同電話だし」

 私がそう説明すると、驚いたように

「「「えーっ! 今時?」」」

 まるで示し合わせたかのように、三人の声が重なる。

「悪かったな、持ってなくて」

 健が、虫の居所がわるいのか、吐き捨てた。

「じゃ、買いに行きましょ」

「無理、お金無いから」

「じゃ、バイトとかは?」

「しなきゃならない、とは思っているが、ま、落ち着いてから。今すぐどうこう、というのはない。すぐに携帯電話も買えない」

 そんな、取り付くしまもないような健に二人は食い下がろうとする。

「と、取り敢えず、番号だけでも教えてよ」

「そうだよ、ゐすゞちゃんにラブコールができないと、困っちゃうから」

「しなくていい。」

 小田さんの言葉に芦田さんが突っ込みを入れる。

「あと、白神さん、名字で呼ぶのやめよう! あたいは涼子、彼女はみう、こいつは隆史、そしてあなたはゐすゞ。OK?」

「うん、芦田さん」

 私がそう返答すると、

「もう、私は涼子なの! いい、ゐすゞ」

と、そう訂正してきた。

「わかった、涼子。」

 そう言うと、涼子は満足げな様子を見せた。

「じゃ、まず服を買いに行こうか。俺はゐすゞちゃんをエスコートするから」

 そういって、隆史は私の横に立つのだが、

「似合わなすぎ」

 目を細め、しらけた感じの目つきで涼子は隆史を睨んだ。隆史は私から少し離れるように足をスライドさせる。しかしながら、涼子かきびすを返すと再び隆史は私に寄ってくるのだが、それを察知した涼子に再び睨まれる。

「あ、あー、わかったよ。涼子の前に行くから」

そう言って、平身低頭で涼子の横を過ぎると、そのまま掻き消えるように駆けだしていった。

「もう、隆史ったら」

 腕組みをした涼子がため息交じりの声を漏らす。

「ま、あの様子ならばぁ、あの店じゃあないですぅかぁ?」

「ま、そうだろうな」

 みうの言葉に涼子は同意する。

 そう言って、涼子は隆史の行った方向と反対方向に足を進めた。

「追わなくていいのか?」

「行かない」

 健の提案をかたくなに拒否する、涼子。私は、ちょっと尋ねてみたのだが……。

「どうしてなの?」

「行けば分かりますよぉ」

 みうは、手招きをしながら隆史を追う。私も健もそれを追う。

「ま、待ってよ!」

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