第7話 襲撃

 自分を取り巻く人影は四人。対する自分は丸腰である。いくら「魔法使い」の修行の一環で実践的な体術を習っていたとはいえ、真っ向から対峙するにはきつい人数だった。


「お譲ちゃん……俺らに会ったのが運の尽きだったなぁ? とりあえず金目のものはすべて俺らに渡してもらってから、みんなで楽しいことをしようかぁ……」


 ゲヘヘ、と下品に笑う体格のいい一人の男が一歩近づく。ほかの三人もその動きに合わせて足を踏み出し、取り巻きの輪を縮めていく。


(──嫌だ、気持ち悪い。捕まりたくない。触られたくない!)


 リリスは唇をかみ締めた。なんと運の悪いことだろう。何か武器でも買っておけばよかったと嘆きたくなるほど、今の状態は絶体絶命だった。捕まれば、見ぐるみを剥がされたあと、男たちの手慰み者になるのは目に見えている。それなら抵抗せずに捕まるより、一か八か血路を開くほうがまだましだった。注意深く彼らを観察し、一番ひ弱そうな痩せた男に目をつける。 あの男なら多少攻撃を食らわせればどうにかなりそうだ。


 男たちがじりじりと迫りくる中、リリスが動いたのは一番体格のいい男の手が伸びてきたときだった。身を低くして狙いをつけた男に突っ込み、みぞおちに体当たりを食らわせる。 不意打ちにひるむ男が一瞬遅れで伸ばした手首をつかみ、力の反動を利用して投げ飛ばす。 とっさに受身を取れなかった男は無様に起き上がれないまま地面に転がった。


 これで一人終わり。残された男たちは何が起こったのか、すぐには理解できていなかった。だが地面に転がされた仲間を見るなり、三人全員でリリスへと飛び掛ってくる。さすがにこれはリリスもかわしきれず、二人の攻撃をよけたところで三人目にマントの布地を捉えられ、あっという間に身動きを封じられてしまった。


「手間かけさせやがってこのアマ……そんなに可愛がって欲しいなら存分に可愛がってやるぜぇ!」

「いやあぁっ!!」


 すっ、とマントの下へと入れられた手に激しい嫌悪感を覚え、リリスは大きな悲鳴を上げる。 肌に直接触る生暖かい手と耳にかかる荒い息が酷く気持ち悪かった。


(こいつに良いようにされるくらいなら……!)


 歯を食いしばって嫌悪感を押さえ込み、頭だけ回転させて振り返る。 覚悟を決め、自分を後ろから羽交い絞めにする男の二の腕に思い切り噛み付いた。


「いってぇ! お前なにしやがるっ!! おい、こいつを押さえろ!」


 思わぬところからの攻撃はさすがに意表を突かれたのか、男は一瞬ひるんで仲間の男たちに声をかける。 その隙にするりと腕の中から抜け出すことに成功したリリスは山道にむかって走り出した。だが今度はすぐに男たちも反応し、後ろから追いかけてきた。足の速度では到底男たちに叶わないリリスはあっというまに長い髪をつかまれ、強い力で引き戻されてしまう。髪の毛が根こそぎ引っこ抜かれそうな痛みに顔をしかめると、男は下品に笑い、腕を勢いよく前へ突き出した。


「ぐぅ……っ!」

「少し静かにしておいてくれよ。ねぐらへ帰ってからたっぷり可愛がってやるからな!」


 手加減なしにみぞおちへ一発入れられ、リリスの視界が暗転する。 必死で意識を保とうとするが、どんどん暗くなっていく視界に抗うことはできなかった。今意識を失ってしまったらだめだ──そう思っても、止められない。 痛みで頭がしびれ、視界が黒に埋め尽くされていく。 そうしてリリスは完全に意識を手放した。

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