第103話 誘い
「別段、おかしなことでもあるまい」
甲殻の老人はその長いあごひげをしごきながら告げる。
「貴様ほどの戦士、確かに星海全域で見れば珍しくもないが、銀河規模であれば一級。惑星単位ではまず見ぬ」
要は見方の問題だ。
蒼海における超銀河国家であるリューティシア皇国であればこそ、多くの軍将を抱える皇国軍と比べればこそ、愛居真咲の力は埋没してしまう。
だが、超光速騎士である時点で銀河では最上級の戦士だ。
神速騎士以上はすでにその枠ではないゆえに、星海において超光速騎士こそが最上と位置付けられている。
「賭けてもいい。貴様は子供の時分より、周囲にまともな敵などおらんかっただろう。それほどの強さ、才能の持ち主であれば当然のこと」
真咲は否定しない。半分は事実であり、もう半分は答える余力もないからだ。
「儂の孫たちもそうだ。貴様同様、星に生れ落ちてより化け物と疎まれ、その力ゆえに孤立し、ゆえに儂が自ら育て上げた突然変異の超天才戦士たちよ」
超光速騎士が銀河系最高の騎士と称えられるのは、それが戦場であり、超人たちの集う軍隊であるからだ。
超銀河国家といえども、住民の大半は地球人と大きな違いはない。
種族の特性として巨大であろうと、異なる器官を備えようとも、自身が生まれた街を、大陸を、果ては惑星すら脅かすほどの力は、普通に日々を暮らす人には必要はないのだ。
「黒獅子よ、儂のもとに来い」
故に、轟嵐鎧将ゴダート=ゴルヴァトノフ・ガルードはそんな子どもたちを探して引き取り、時には戦場で会った敵であっても自身の元へ引き入れた。
例え軍隊であってもその力を十全に発揮できるとは限らない。
超戦士をただその力を使い、あわよくば敵諸共始末するために使い潰すことも珍しくはないのだ。
「儂の孫たちならば、貴様の良き友、兄弟姉妹になれよう」
どれほどの超戦士であろうと、その多くが仲間を欲する。
それは気兼ねなく付き合える友であり、互いに競い高め合う好敵手であり、時に一生を寄り添う家族として。
かの戦鬼ザルクベインすら、一度は戦場から遠ざけるために離れた我が子ゼトが、騎士として、自分に迫る戦士となることを止めなかった。
そして――
「儂が貴様を鍛えてやる。あのゼトを超える戦士としてな」
鎧将は二の矢を放つ。
愛居真咲が神速騎士ゼト=ゼルトリウス・フリード・リンドレアを兄と慕っていることは知っている。他ならぬゼトから聞いたのだ。
自分の弟として、自分に匹敵する才能を備えた異才の天才児の話として。
ゼト・リッドとして星海に父を探し、好敵手を探しに武者修行の旅に出た少年が出会った最高の家族として、愛居真咲の名を聞いていた。
その弟が、兄をどう見ているかなど容易に想像がつく。
「たとえザルクに師事したとしても、奴と同じことをしている限り兄は超えられんぞ?」
真咲は答えない。
すぐに応えられないことなどわかっている。
考える時間が必要なだけではない。
目の前の若者はもはや喋ることすら出来ないほどに消耗しているのだ。
それがわかっているからこそゴダートは待っていた。
すでに彼はガラードとの同調を取り戻すまでに回復していた。
遠巻きに様子を伺っている敵、龍装師団艦隊とは、今更干渉など問題ではないだけの力の差がある。
敵の回復を多少待つ程度の余裕が老人にはあった。
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