第56話 艦隊狩り 下
艦船同士の戦いは矛盾の塊だ。
相手の防護障壁を撃ち抜ける砲。
相手の砲を防ぎきる防護障壁。
相手の攻撃を振り切る速度。
相手の速度を捕らえる射撃制度。
互いが互いにその機能を備え、相手を上回る分野で優位に立つ。
そして同格の艦船同士なら、正面からの撃ち合いではお互いがお互いに決着をつけるのは難しい。
砲撃戦の末に、相手の防御を突破するしかない。
艦船同士の戦いなら、だ。
その砲撃戦の補佐として、超音速騎が存在する。
艦船同士が正面から撃ち合い、互いの攻撃と防御が正面に集中した横合いを突くのが、超音速騎の役割だ。
所属艦との
「——来るぞ!」
龍装師団第13分艦隊音速騎隊副長を務める
隊長であるウェルキス=ウェリオン・キンバー・ストルはその言葉に、慌ててて目の前に迫る敵艦に対する自機と僚機の隊列を再確認した。
戦闘経験も浅く、戦闘勘もないウェルキスでは、彼の駆る装機ジャルクスの自動操作に任せた方が良い場面もある。
ウェルキスが情報整理に入っている間に、機体は自動的に敵艦の対空迎撃網を分析し、侵入経路に入った。
多少の誤差はあるものの、彼の率いる戦装機ジャルクスの部隊もそれに同行する。
眼前に迫る巨大な敵自動戦艦はその対空兵装を全開にして迎撃網を展開するが、それは装機と同行していたより小型、光速の誘導弾を優先して弾幕を張り、その間隙を縫うように音速機隊は敵艦へ接近する。
光速戦艦と亜光速の音速機の相対速度では敵艦に取りつく猶予は数十秒が限界だ。
限界時間を過ぎれば、二度と敵艦へ追いつくことは出来なくなる。
音速騎隊はそのわずかな時間で敵艦の弾幕を潜り、有効射程圏へ侵入するのが役割だ。
自律判断で敵艦に迫る高い空間的自由度と破壊力、そして光速の誘導弾に対し、音速騎が唯一勝るのは彼らが使い捨てではないということだけである。
同時に迫るどちらがより脅威かは、敵が判断することだ。
幸運にも、ウェルキスたちは敵からより脅威ではないと判断されたのである。
無論、それは対応しないということではない。
「敵機確認!」
対空砲火を縫う音速騎隊に対し、眼前の敵艦の外壁から次々と敵装機が出現する。
フェレス復興軍艦隊の主力機、アンカルスだ。
フェーダー銀河における音速機の上位機種である。
現在も、敵自動艦はその主砲を迫る第13分艦隊に向けて放ち、分艦隊からの反撃を前面に展開した防護障壁で防いでいる。
その防護障壁の隙をつくのが主砲とは別に展開された光速誘導弾と亜光速の音速騎隊であり、それを迎撃するのもまた音速騎隊の役割である。
ウェルキス率いる戦装機ジャルクスの部隊と、迎撃に出撃したアンカルスの部隊が対空砲の嵐の中で激突する。
「——!」
ウェルキスは正面から迫る敵装機の突進を、自分の乗るジャルクスの左腕に持たせた大型の盾で受け流し、後ろに通り過ぎた敵機を機体背面に背負った誘導弾で振り向くことなく撃墜した。
続いて接近する敵機には右のエーテル銃で対応する。
戦闘経験が浅いといっても、音速騎士としての彼の実力は決して低くなかった。
音速騎士としては上位にあり、足りないのは経験だけだ。
ただ、周囲の比較対象が高すぎるだけなのだ。
「……ついていかなくてよかったのか?」
その言葉に、旗艦グライゼル艦上で先行する音速騎隊と敵艦の戦いを、凱装機ダートで
発言したのは黎装機サウロスのアイヴァーン・ケントゥリス。
彼はグライゼル艦上に引き上げられた愛居真咲の獅鬼王機エグザガリュードを挟んで反対側に座している。
「別に必要なくない?こっからでも見えるし」
「……意外だな。君はもっと好奇心旺盛な人物だと思っていたが」
「いやいや、この状態の真咲置いていくのはないでしょ」
挑発的なケントゥリスの言葉を、笑いながら弧門は否定する。
二人の間で、エグザガリュードが全身から蒸気を噴き出しながら再生を続けている。
一度死んだ状態からの復元は、真咲の再生能力をもってしても完全な状態に戻るには時間がかかる。
完全に消滅した状態から見た目こそ五体を取り戻したものの、基本的な手足の復元や構築が満足にいかない状態で光速拳、超光速拳を駆使したために、真咲の体内もエグザガリュードの内部機構も粗雑な状態であった。
その体内の再生を徐々に行っているのだ。
再度、超光速状態を長時間維持できる身体を取り戻す必要があった。
「いくら何でも、戦争のやり方も知らないのに簡単に乗り込むのはないでしょ。御覧の有り様だし」
「……否定はしない」
ケントゥリスは自分の先走りを認めた。
結局のところ、ケントゥリス自身が愛居真咲だけではなく、溝呂木弧門の戦いぶりを見たかっただけなのだ。
『敵機接近!』
その報を聞き、弧門とケントゥリスもまた臨戦態勢をとる。
13分艦隊が音速騎隊を送り込んだように、敵もまた同様に音速騎をグライゼル率いる分艦隊へ繰り出してきたのだ。
すでにグライゼル麾下の装機は敵艦への攻撃のために出払っている。
彼らは防衛より攻勢を優先させたのだから当然である。
それでも、艦直属の
「とりあえずは実地体験ということで!」
「ここを切り抜ける!」
凱装機ダートが全身の装甲を展開し、グライゼルに迫る敵機に対し光速誘導弾を放つ。
黎装機サウロスはその方に背負っていた槍を、背面の武双と組み合わせて狙撃砲へ組み換え、艦の対空砲火を掻い潜る敵を狙って次々と撃ち落とした。
『御曹司!槍だ!』
部下の誰かの怒号に、ウェルキスは慌てて乗機に対艦兵装を構えさせる。
迎撃機との戦いを切り抜けた先で、いつの間にかウェルキスの装機ジャルクスは敵艦への有効距離へ侵入していたのだ。
『
撃ち込まれた巨大な杭が艦内部に衝撃波を発生させ、巨大な爆発を引き起こす。
だがブロック構造の戦艦はそれだけでは損傷はしても致命傷には至らない。
「——もう一撃、をっ!」
ウェルキスはさらに追撃をしようとするが、二本目の杭が兵装内で生成される前に、敵の迎撃機からの妨害を受けた。
だが、そのウェルキスが敵を引き付けている間に、別の味方機が敵艦に『
さらに二発、三発と追撃の『
その破片に当たらないように回避して、ウェルキスは周辺の状況を確認する。
「兵長!次に行けるか!?」
「十分でさあ!」
ドルバン兵長の豪快な返事が返り、次の標的を探すウェルキスの視界のはるか彼方で、敵艦複数が連続で爆破、轟沈するのが見えた。
ウェルキスたちと同様に敵艦に取りついた音速騎隊の成果である。
それとは別に、一条の光が敵艦を貫き、一撃で仕留めるものすらあった。
光速騎は、光速戦艦一隻と同等かそれ以上の戦力だ。
同じ一騎でも、ウェルキスたちとは戦力が違った。
それが数十騎でそれぞれ別の戦艦に襲い掛かり、単騎で仕留め、時には弾き返され、逆に逃げ出すものもある。
「よし、次はあの船を狙う!」
ウェルキスは自分たちの部隊に近いものから、亜光速飛行で追尾可能な敵艦を分析し、一番狙いやすいと割り出したものを指示する。
それは彼の目の前で光速騎士を撃退した艦だ。
離脱した光速騎士は再び攻撃を図っており、敵艦はその対応に手いっぱいに見えた。
加勢すれば、確実に落とせると見込んだのだ。
その命令に、部下たちの怒号が響いた。
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