第1037話「匂いを追う」

「あの仮面の下に何がある? いや、何があったんだ……」


「過去こそ知りませんが、ご主人様と同じ匂いがしました」


「似てるっていうのか?」


「そうではなくて、花の匂い、埃の匂い、空気の匂い……そのままの意味です。私は数日前の匂いを追うことができます。今でこそ、消えてしまっていますが。間違いなく同じ場所にいたと断言できます」


 俺は思わず利き腕で顔を覆っていた。

 俺の姿はこの世界の人間とは違う。

 根本的に似ていたとしても、やはり違う。


 あの仮面の下にある素顔は恐らく思い描いた通りであろう。

 ならば、異世界から飛ばされてきたとみるべきであろう。

 転籍の類では匂いのような物質的匂いは残らない。

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