第943話「手を引かれる街の中」

「早くいこっ!! 他にいないと思うけど……」


「ごめん」


 俺は動けなかった。

 先ほどまでの緊張感が今頃になってぶり返していたからだ。

 見抜かれていたにもかかわらず、どういう意図があったかは分からないが見逃してくれた形となっている。


 今更、取り繕うことも意味などない。

 街灯照らされているのは、倒れた衛兵たちだけで不穏な影もない。

 だからこそ、意表を突かれる形となった。


 ならば、此処にとどまることがいかに危険なのかは明白である。

 ユイナに手を引かれて宿へと走る。

 その横顔からは光の加減なのか定かではないが、うっすらと朱く見えた。

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