第942話「先を行く過去の影」

 想定していなかったことは容易に想像できるが、顔に出るほどの質問だったかと思いはしたが動揺するほどではなかった。

 次にどう返事が返ってこようが争うようなことだけはあってはならない。

 万が一があるようならそこで、俺たちに選択肢はなくなるのだ。


「何者かもわからない人間を仲間に引き入れようというのは流石に想定していなかった。次に会うことがあれば手を貸すと言っておこう。ただし、その時に俺が何者か答えられたらの話だ。それまでは互いの立場は何も変わらない。一応、俺もお前も無駄な血を流さずに済んだという事実には嘘はないからな」


「それでいい。お前もその時までに死ぬようなことがないようにしておけ」


「一言言っておく。今のお前では俺を殺すことはできない」


 兵士は最後に言った。

 最初からそこには倒れた衛兵以外に誰もいなかったような静けさを置き去りにして。

 質問次第では俺たちはここにはいなかった。

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