第890話「に一矢報いる光を見た」

「奴隷の存在を知った……。俺の世界にも何千年も前から現代まで俺の知らないところで制度として存在していることは知っていたんだ。それが合法であろうとなかろうと確かに生活に根付いていたってことは知っていた。それでもだ。俺のいた国では少なくとも身近ではなかった。だから、俺が救ってやればいい……金ならある。なければ力づくで解放してやればいい……そう思っていた。その結果がこれだ」


「答えになってると思うの、それで?」


「わかってる。奴隷商人の言うままについて行ってこの娘を無償で引き取った。はじめから俺に渡すつもりだったとしか思えない。しかも、どうやらこの国の王が絡んでいるらしい。本人に聞かなければいけないことがあるがいつ起きるかもわからない」


「私の知ってる知識と同じとは限りませんが、これだけ弱り切っているとなると今まで受けてきた事に足しするトラウマもあって目を覚まさないってこともあるかもしれません」


 ディアナが言うことは察しが付く。

 俺はまだ倒れる前の姿をわずかな時間だとしても、この目で見ている。

 絶望した生気のない表情の奥に、それでもこの世界に一矢報いる光を見た。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る