第799話「吸血鬼と悪魔の過去の話」
宿にはルナとディアナ。
新たに個室の一つを解放し、スミレ専用の救護室として使用することで一室を有効活用することにしたのだった。
二人きりとなったことは今までになく、スミレの意識が戻るまでは事実上の二人きりの時間となった。
「こうやって話をするのは何千年ぶりかしら。昔のあなたに比べたら、ずいぶん理性的になったわね。おとなしく人のいう事を聞いているなんて、今だに信じられないわ」
「ボクはこの間……ダーリンに出会うまでは一人だったからね。でも、今はダーリンがいる。ダーリンがボクを変えたってこと…。わかってるんじゃないのかな? ダーリンはただ、特別な力があるわけじゃないってことをね」
二人は過去に数度出会っている。
世界は広く、そして狭い。
人間の寿命が尽きるまでの数十年の歴史の中でも運命的な出会いを果たす者は少なくない。
それが数千年ともなれば人間の寿命の数十倍にもなるのだから、確立も跳ね上がる。
だからと言って、意図せず出会う確率はたかが知れているのだから、互いに意識の外であれば会うことそのものは奇跡的なものといって差し支えはない。
時には味方、時には敵であった。
明確な命の取り合いなどは互いに無意味であることを理解しているからこそ皆無だったのだが、ぶつかることそのものは芳しくない。
しかし、環境が差し向けるのだから従わざる負えないこともある。
抗えないことが、両名共に理解しているからこそ不仲にはさせなかった。
「そうね。私も別の誰かに変わったみたいだと思っていたもの。大事なことを忘れてしまって、外に出ることも億劫になっていたのに……おかしいわね」
「まだ、探していたんだ。問題がわからないのに、答えを探す無謀なゲームをしてるみたい。前にも言ったけど、敢えてもう一度言うけど。ダーリンと一緒にいれば問題も、答えも両方見つけられる気がする」
「やっぱり、根本的に貴女とは気が合うのかもしれないわね。私も不思議とアマトさんは応えに辿り着ける気がするわ。それも、私よりも先に……」
ディアナは嬉しそうでいて儚げな表情をみせる。
ルナが気がつかないわけもない。
表情を読むのはゲーマーとしては基本であるのだから、その一瞬見せた遠い過去を想う吸血鬼の長い長い旅路を思わずにはいられなかった。
そこには自分が辿った数億、数兆、数京……の命の旅路に重ねていた。
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