第694話「二つの記憶」


 異世界の人間がこの世界に召喚される為の代償。

 それがどういう形にせよ召喚された人間を強くする。

 それでも腑に落ちない点は多いのだが。


「お兄さんがお母さんと同じ世界から来たなら不思議に思っても仕それなら、仕方がないと思う。お母さんの記憶にはモンスターは出てこないんだから。じゃあ、なんで無事に首都までたどり着いたのかわかるでしょ? あたしにはあいつの知識も記憶もあるんだから……そういう事」


「スミレが母親を首都まで連れてきたってのはわかった。だが、なぜそのタイミングで正気に戻ったっていうんだ?」


「それはわからない。聞く前に死んじゃったから……。でも、あたしの記憶の中のお母さんじゃなかったと思う。5年も前だから記憶も定かじゃないけど、まるで別人みたいだった気がする」


「記憶がって……。記憶力は良いんじゃないのか? 二人分の記憶があるんだろ?」


「それは関係ない。元々ある記憶とこれから覚えていく記憶は違うし」


 

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