第416話「静謐・霧・湖」

「周りもだんだん霞がかってきて一層幻想的な感じがするな……。なんか今あそこに恐竜の頭が見えなかった?」


「今流行のUMAでしょ。コッシーとかアッシーっていう謎の生命体。学校でも夜のプールに出たって騒いでたよ」


「それは謎の生き物じゃないと思うけどって、いくらなんでも霧が深すぎるだろ」


「そうね。この周りを囲むように霧に包まれてきたわね。まるで結界のようだけど、当り?」


「まあ、十中八九当り。それも湖までは鮮明なところから推測するにお呼びみたいだぜ。UMAさんがね」


 先行していたスペラ達も立ち止まってこの異変にどう対処するか検討していた。

 そのまま進むことも事実上困難となった。

 何故なら霧に阻まれ先を譲るようなことはしてくれない。


 ディアナですらこの結界を突破できないでいる。

 即ち、術師としては格上の存在であるという事は明白でいて揺るがない事実として警鐘を鳴らしている。

 先程まで下ることすら困難極まりないとさえ思えた断崖絶壁に緩やかな傾斜が見受けられる。


「本当に呼んでるみたいよ。さあ、早く行きましょ。スペラ達を先に行かせるつもりはないんだから?」


「ああ、その通りさ。こんな美味しい見せ場譲るなんてもったいないってね。先に行かせてもらうさ」


 俺は買ってもらったばかりのおもちゃを手にはしゃぐ子供のように、無邪気に、無垢に、稚拙で、蒙く、駆け下りた。

 そこは、絶美なる岸辺。


 水面が割れた。

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