第391話「『怒涛氷晶蹴』」
今日一日もあっという間に過ぎ去ったように感じた。
食事も終わり、以前と同じ要領で作り上げた簡易的な家で眠ることに最早慣れてきたのもつかの間。
明日にはこの寝床もここに置き去りにして、首都を目指さなければならない。
ここは昨日のような開けた土地ではなく周囲を草木に囲まれた、森林地帯である。
予想はしていたのだが、蜘蛛に蛾に蟻と馴染みの虫が辺りにうようよといてその不快感に眠れるはずもなく一人外へと出ることにした。
何の生き物かわからない鳴き声やら羽音が聞こえてる。
自然などと言えば聞こえはいいが、現代のコンクリートで密閉されたマンションの一室で生活していた俺は落ち着いて眠ることなどできない。
特に昨日拠点を構えた場所が草木が育ちにくい土地だったこともあって格差を感じてしまうのだ。
何より俺の未熟さ故に植物から朽木まで不純物を巻き込んで建物を練成してしまったのが、不快さに拍車をかけることになってしまった。
「結界って虫には効かないのか……」
「蚊帳が欲しいよね。虫よけスプレーもいるかな」
「蚊帳か……。このご時世なかなか聞かなくなったな。つってもこっちの世界ではどうかわからんが。ユイナは虫、平気だろ?」
「気にしないけど、いないならその方が良いって思うんだけど? アマトは神経質すぎるんじゃないかな」
「やっぱり、時代だな」
「馬鹿にしてるでしょ」
「うぐッ!?」
どこからともなく現れたかと思えば、俺の鳩尾にはユイナの右足のつま先がめきめきと嫌な軋む感覚を全身に伝わらせながらめり込んでいた。
足の先から俺の胸を中心に温度を奪いながら血液から凍っていく。
ぴきぴきと氷が割れる音となって耳に届く。
ひさひざな気がするが新しい技を俺で試しているようにさえ思える。
名付けて『怒涛氷晶蹴』ってところか。
なぜ怒涛かと言われれば、怒りが伝わってくるからの一言に尽きる。
俺は意識が無くなった。
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