第372話「後ろは見えない」

 人為的とはいえ雨の影響はこの辺りにも及んでいたのは、湿った草木と水たまりから窺い知れる。

 スペラは最短ルートを行ったととするならば木の幹から岩の上など、苔の生していることを鑑みるならば圧倒的に足場が悪いと容易に想像できる。


 ところどころ真新しい足跡の痕跡を見つけていたが、そのいずれも傷跡という表現がしっくりくるほど強い衝撃を受けていた。

 隠密行動をしているわけではないのだから痕を気にする必要がない。

 それを知ってか知らずか配慮というものがまるでなっていない。


 そこでディアナが気にしていたのは必ずしも人間のみに痕跡というものを感じ取る能力があるということではない事だ。

 狩人というのは獲物の痕跡を追う事に関して言えば人をも越える。

 スペラは自ら囮となってあらゆる生物をまとめて引き寄せることを選んだのだ。


 それは獣の本能をもわが手に、ジョーカーとして切れるカードにしているという事。

 超直観のようなものは意図的に使いこなせればこれと無い武器になる。

 それでもディアナはスペラの思惑などどうでもよかった。


 結果だけを求めるならば。

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