第342話「時間が命を絶やす」

「お前は本体の残りかすなんだってな。じゃあ、俺がなにを言っても理解も出来ず罵倒したところで怒りも覚えないんだろ? そんなものがな、ここにいていい通りはないよな。せいぜい、俺の役に立ってくれ」


 怨魂に右手をそっと伸ばせば、死の因子が俺の腕へと吸い寄せられるように集まってくるのがわかる。

 そして、左手で拡散して濃度が薄くなった粒子に触れると左手はまるでマグマのようにぐつぐつと沸き立ちアビリティで打ち消すことも出来ないほどの激痛が走る。


 俺の腕は今再生と死を繰り返している。

 人間の細胞は一度死んでしまえばもう再び活動することがないと言われていた。

 だが、それは最近の研究では間違いだと言われている。


 実際に呼吸が止まった人間が再び息を吹き返した事例も、死んだ細胞が再び細胞分裂を始めたケースがあった。

 一度死んだ者は生き返らない。

 それを覆すのは時間。

 

 死と再生が交互に行われている現状であればその法則は、糸も容易く赤子でさえ理解できよう。

 今まさに差し引きゼロ。

 世界の時間は動きつつ俺の腕の時間は停滞しているのと同義。


 僅かだが、均衡が崩れ痛みが無くなっていくのがわかる。

 時間が経過するという事は老化しているのだから、腕は朽ちてなくなる。

 そう、怨魂の正体は時間を急速に加速させる現象を起こすことだったのだ。


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