第310話「絵画と夢と」

 既に全員から注目を集めている男は眉一つ動かさず、何か考え込んでいるかのように僅かに視線を落とす。

 僅かな表情の変化であったり、目線、仕草から何を考えているか読み取れるという。

 それは何も異世界のアビリティやスキルなんてものを使わずとも心理学、医学、科学といった日本の最新の知識や技術で導き出せる。


 嘘をついたり、こちらを品定めするようなことはないと判断したが全てを信じてなどいない。

 場合によってはいつでも道程を違えることになるのは覚悟している。

 まだ、数時間の付き合いなのだからここで決別したところで不利益はないはずなのだが利益もない。


 要するにいかにこの場で投資を行えるかがカギになる。

 ここでせっかくのえにしを断ち切ればどうなるのか考える必要がある。

 無論それは相手も同じである。


 一方的にここで関係が断ち切られることもあるのだから、こちらから一歩歩み寄っていく姿勢が必要不可欠であるが、それは必要条件ではない。

 答えなどは決っていない。

 

「美術館にもいったことないけど、絵画も彫刻も全部とても綺麗で感動しました。まるで写真見たいです」


「写真? なんだかわからんが褒めてくれてありがとな。でもな、あれは綺麗なんかじゃないんが……。あれは全部夢さ、出てきたのを掘っただけだが」


  



 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る