第210話「代償と対価」

 最早、本能だとかそういう事ではなく本人の意識の及ばないところで身体だけが暴走しているのだろう。

 哀れでいて、同情してしまうような光景に罪悪感さえ感じる。


「誰の仕業かは知らないが、いずれぶつかるだろう……。その時は仇を取っ手やる。だから今は安らかに眠れよ……」


 俺はガルファールを上段に構えると 月極燕落げっきょくつばめおとしとしを放つ。

 恐竜はあっけなく左右に分かれてピクリとも動かなくなった。

 まるで俺の言葉を理解したかのように動きが止まったような気がした。


 気のせいだったのだろうか。

 仮にそうだとしても、託されたのだと信じたかった。

 気が緩んだ瞬間身体から発していたあらゆる力の流れが止まったのがわかった。


 ステータスを見れば全ての数値が一桁まで落ちている。

 身体はピクリともむごかない。

 立ったまま意識が半分何処かへ行ってしまったかのような錯覚すらする。


「初めてにしては上出来だと思うよ。本来なら命と引き換えにして得られる力だからね」


「!!!」


 今とんでもないことを口走りやがった。

 もちろん、意識を共有していた時にわかっていたもののそれを知らないふりをしていた。

それ以前に真名ではないのだから真契約というわけではない。

 魂を真契約に対して、俺が与えた名による契約では本質的な魂を対価にはしていない。

 だから、『本来なら』とルナは言ったのだ。


 真名による契約がどれほどのものなのか、気にならないお言えば嘘になるが今はまだその時ではない。

 だからと言って死んでやるわけにもいかない。


 この一戦が終われば死ぬなんてことを考えていたら、とてもではないが戦いに赴くなどできなかった。


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