第142話「注目を集めた村」

 目の前が真っ白になる。

 文字通り激しい雨が視界を遮り周囲が見通せなくなっている。ここまでの雨などユイナは体験したことがなかった。

 同じく数千年の時を過ごしてきたルナでさえ今の状況が尋常ではないことくらい理解していた。

 

 今までに同規模の雨量を目の当たりにしたことがないかと言われれば嘘になる。しかし、必ず何らかの要因があって初めてこのような現象が成立する。

 無から有は生まれはしない。


 まして、雨ともなれば星の循環作用によるものだと断定したくなるところだがこの世界にはそれ以外の要因もいくつも考えられるのだからたちが悪い。


「こんなに激しい雨は今まで見たことがないよ。ルナは?」


「ボクは初めてってわけじゃないけど、ここ数百年はなかったと思う。それに降り方がおかしい……。これは魔神がからんでるかもしれない」


「魔神……。根拠はあるの?」


「雲が動いていないからね。正確には流れていないってこと。周囲から集めた水を上空に集めて子の村を中心に雨を降らせているようだね。辺りが暗いのもそれが原因だと納得できるんじゃない?」


 ユイナは正面にいるはずのルナでさえほとんど視認できない状況と、会話が辛うじてできるほど轟音が響く状況に答えを見いだせない以上可能性が高いルナの推測に納得するしかなかった。

 魔神というのも知識としては知っていたのだが、その存在はなかば幻想の産物だと思っていた。

 

 魔神も偏に神の一種なのだから本来目の当たりにすることはなく、関わることすらない存在の一つだという認識だ。

 実際は魔神は特定の条件を満たした者が昇華することで『成る』存在の為、人並みの生活を送るものも少なくない。


 と言ってもその存在自体は数える程しかいないのだから、もともとの神という存在に比べたら圧倒的にすくないのだが、それは本人たちですら知るところではない。


 その魔神という存在を口に出したルナも多少なりとも関わりを持ったことがあるのは推測に難くない。

 だが、何の根拠もないのに魔神を諸悪の根源にしては可哀想だがぬかりはなかった。


「このままじゃまずいね」


 ルナはユイナに意味深な事を言うが、ユイナは何の事を言っているかわからなかった。

 ユイナがこの世界に来るまではゲリラ豪雨を言う言葉はまだ世間一般的には使われていなかった。言葉と言うのはその時代背景で大きく変わる。


 アマトであればこの意図することがすぐに理解できただろう。

 常日頃から目の当たりにしてきた光景である。それも客観的に見てきたから理解るのだ。


 この村は今360度全ての地域から注目を集めているという事に。  

 

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