第105話「一言の重み」
谷底は深く周囲が暗闇という事もあり、全貌を把握することなどできはしない。
崩れ落ちた巨大な瓦礫でさえも底に落ちた音が聞こえない。それ以前に底などあるのだろうかと思ってしまうほど漆黒が蠢いている。
「すまない。命拾いした」
俺はルナに謝意を述べるとすぐに踵を返し、宿の散策に向かう。
「少し落ち着いたらどう? 焦るのはわかるけど建物は逃げないよ」
「そうだな……。冷静さを欠いていたようだ。雨に濡れて頭なんて冷え切っていそうだってのに、その逆だとはな」
「アマトだけじゃない。私だって背負ってるものがあるんだから」
「ボクにも手伝わせてほしいんだけど。流石にボクだけ何もしないわけにはいかないからね」
「みんな、ありがとう。なんでも俺一人でしている気にでもなっていたんだな。とんだ自惚れだ」
「そんなこと……ないにゃ」
薄らと目を開けるとスペラは口を僅かに開けてそれだけ言うとまた眠りに落ちた。
眠っていても会話がわかるものだという疑問は特に持たなかった。何故なら寝ぼけている人間とは会話が成り立つという研究結果を知っていたからだ。
だからと言って絶妙なタイミングで言われればその限りではない。
「わかってるさ……。その期待に応えられるくらいの器ならある」
おれはもう聞こえていないスペラに言った。
ユイナもなにかおもうところがあったのだろうが、スペラが代弁する形になったのでそれ以上は何も言わなかった。
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