第91話「悪魔の美少女ルナ・ヴェルナー」
結局はこの悪魔が全て一人で解決したのだ。俺達はただ偶然居合わせただけで、仮にここにいなくてもこの悪魔は女の子の魂を救っていたのではないだろうか。
「結果的にお前はあの女の子を助けたんだな」
「人間の言う助けることの定義が命を救うものに限定されないのであれば、そうかもしれないね。最後は安らかだったよ。今まで大勢の人の死を目の当たりにしてきたけど、ここまで澄み切った心で逝けた人はいなかったと思う」
「俺は命を救う事が出来なかったが、お前は魂を……心を救ったんだ。できれば死なせずに済めばよかったって思った。今となっては死を回避することができなかったってのもわかる。それでも俺は……これからも抗い続ける」
「じゃあ、ボクも一緒に抗ってあげるよ。この過酷な運命にね」
「来るなって言っても来るんだろ?」
「約束だからね。勝っても負けても君について行くよ。君が死んでも永遠に離れてあげないからね」
「恐ろしいことをしれっと言ってくれるな、死んでもお前と一緒なんて笑えない冗談だぜ。そんなことよりその姿は何なんだ。それが本当の姿なのか?」
ずっと一緒っていうのは寿命が尽きたら魂に吸収されるという事を言っているのだろうか。
全く笑えない。
それよりも姿かたちがまるで別人になっていることが気になった。元々女の子に取りついていた時しか知らない。
(そう言えばあの女の子の名前は何て言うのだろう……。最初は男の子だと思っていたんだっけ)
名前は聞いておかなければいけない。そんな気がした。
「そうだよ。これがボクの魂に刻まれた真の姿。あの娘の肉体を使ってこの世界に顕現することができたんだよ。悪魔がこの世界で肉体を得る方法は人間の肉体を奪うしかない。その数と質によってボクのこの世界での力の有り様が決まるのだけど……。思ったよりもこの肉体は優れていたよ。ボクが顕現することで再構築された身体は、最早悪魔の肉体になる為に生まれてきたかのような気さえするほど良くボクの魂に馴染んだよ」
「あの女の子の肉体はお前のものになったわけか……。せめてあの女の子の名前を教えてくれないか。俺が覚えておきたいんだ」
最後の笑顔を見た今となっては、この結末が間違っていたと結論づけることができなくなっていた。
だからと言って悪魔のやることなすことが全て正しいとも思えない。
結果として強大な力を持った悪魔がこの世界に降臨した。
「ルナ・ヴェルナー。それがあの娘の名前だよ……魂に刻まれていたね」
魂に刻まれていたとはどういうことなのだろうか。
そう言えば前にレイブオブスの悪魔も真名などと言っていたが、関係があるのではないだろうか。
「お前の本当の名前は何なんだ? 流石に名無しというわけにもいかないだろう」
「真名っていうのは相手を縛り付ける呪いにもなるけど、その逆もあるんだ。今の君ではボクの本当の名前を知ることで命を削られていくことになる。それでも聞ききたいの? 何も教えてあげないわけじゃないんだよ。契約を結ぶことによって対価をもらう事になるってことだね。ボクの真名にはそれだけの力がるってこと」
「それなら、それでいい。契約なんて結ぶつもりはないからな」
「それはボクが困る。ボクは君と契約を結んで君の行く末を見て回りたいんだ。妻として!!」
「よくわからないが、名無しの悪魔を連れまわす趣味なんてない」
「それなら、ボクに名前を頂戴。それならいいでしょ。悪魔契約の中でも、名前を与えられた場合の契約は真名による契約と同等の効力があるんだ。もう二度とボクは君に逆らうことは出来なくなる。対価もいらない。何故なら、対価は君の行く末を見る事なんだから……」
どうして、そこまで俺に執着するのか全く分からなかった。
それでも強大な力を持った悪魔を戦力に加えられるのは大きい。
この悪魔がいう事があっているのか間違っているのか、だましているのか、真実なのか何もわからないが、真実だとすれば俺を裏切らない最高の駒だとも言える。
それならば素直に受け入れる他ない。
ただ、責任はとってもらう。
「お前は今日からルナ・ヴェルナーだ。あの子の分まで生き続けてもらう……あの子の為にも」
「私はルナ・ヴェルナー……」
「そうだ。それがこれから名乗る名前だ」
「なんだか不思議な気分……。まるでもともとボクの名前だったかのように感じるよ。たぶんあの娘の魂を取り込んだからからかな。これからはルナって名乗らせてもらうよ。それから、君たちの名前を教えてくれるかな」
「俺はアマト……テンマ・アマト。こっちがユイナ・フィールド。ルナ、正式にけいやくを結ぼう。ただし俺が死ぬようなことはない方向で頼むぜ」
「もちろんさ。言ったでしょ? 対等な関係だってね。僕にだってプライドがあるんだよ。命を懸けるだけの価値が君にはある。それを証明したいって言うのもあるしね。悪魔は契約にはうるさいからってわけではないから。ボク個人の為にもやり遂げて見せる」
「嘘は言ってないと思う」
ユイナはルナの心の内を見透かすように俺に伝える。
それを俺は信じることにした。
「今からパーティーの申請を行う。それに従ってもらう。それでいいか」
「拒否権はないよ。ボクは新しい名前を真名として魂に刻まれ、君に縛られているんだから命令とあらば逆らうことは出来ないし、逆らう必要もないしね」
「ならば従ってもらおうか。俺の為に付き従ってもらう」
「喜んで」
こうして悪魔の少女ルナ・ヴェルナーが新たにパーティーの仲間として加わった。
戦力の大幅な強化になることは誰の目にも明らかだった。
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